昨日の約束

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猛ダッシュでアパートに戻るもたった100メートルの距離でもさすが局地的豪雨。髪も服もベタベタだった。かろうじて腕時計は濡れないように守ったけど。


ふたつ並んだ扉の前。奥が藤ヶ谷の部屋。その横が俺の部屋。同じ部屋に住んでるわけじゃないのに…まるで一緒の場所へ帰ってきたように急に照れてしまう。ドアのぶに手をかけ、顔が熱くなるのを感じて横のドアのぶに手をかけている藤ヶ谷の方を見る。誘ってくれた御礼を言おうと思って。


すごくすごくすごく楽しかった。
一緒にいるとやっぱり楽しくて。ふたりで笑い合う。あの頃のふたりでは確かにないのにあの頃のふたりのようだった。
好きだという想いは強くなって積もっていく。
玉森には申し訳ないけど。
本当にちゃんと自分の気持ちを伝えよう。今日本当に実感したから。
藤ヶ谷が好きだ、と。


(好きだよ)
「今日はありが･･･っ」


好きだと思いながら言葉で御礼を言いながら藤ヶ谷に笑いかけると、言い終わる前に、腕を引っ張られた。そのまま態勢を崩し、引かれるままに藤ヶ谷の部屋へと引き込まれた。
藤ヶ谷が後手にドアを閉め、密室で二人になる。


ドアに身体を押し付けられ、身動きが取れない。
藤ヶ谷の顔が目と鼻の先にある。
吐息が聞こえる。雨で濡れて、藤ヶ谷の前髪から雫が垂れる。
その雫が自分の頬に伝う。自分の髪からも雫が垂れる。その雫が混ざり合い、首に垂れていく。


藤ヶ谷を見上げる状態になり、藤ヶ谷のキレ長い瞳と視線が重なる。


「・・・んっ...！」
「・・・っ、」


次の瞬間、距離が0センチとなった。
藤ヶ谷の唇が俺のそれに重なり塞がれる。


(好き)


三度目のキス･･･そう思って瞼を閉じた時、今までとは違う感触が唇に広がる。
唇がツンとノックされて。ビックリして思わず口を少し開けると口内に侵入してくる生温かいもの。
柔らかいはずなのに、一瞬として固くなっていて歯の裏をなぞるように動く。


(舌･･･、、？)


知識はある。これは、深いキス･･･


何で、？


あの子がいるのに。


頭に過ぎる"あおい"さんの顔ーー･･･


「んーーー･･･っ」


苦しい。息ができない。


唇は離れることなく、角度を変え何度も口付けられる。


「ん、っぁーーーーー！！」


急に胸元に指が触れ、突起をギュッと摘まれた。


自分の声ではないような声が漏れる。
恥ずかしくてその声に耳まで熱くなる。


なんで、なんで…

怖い。

好きでもない人と藤ヶ谷はこんなことするの？

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