「知らない方がいい事もあるよ」 ページ27
次に学校に来た日。その日は午後からヒーロー基礎学という授業が入っており、フツーの授業続きが退屈だった僕には気分転換に良いだろうと踏んでいた。
普通にドアから来たオールマイトというヒーロー。ギャグ滑りしていたのは笑えなかったよ。
魔改造された教室の壁からコスチュームが入ったケースを取り出し、群れに着いて行く。
「そういや逆の個性って何だ？」
隣でそう聞いてくるのはテープくん。昨日自己紹介したような記憶があるけど、生憎名前は忘れた。
「知らない方がいい事もあるよ」
僕が返すと、テープくんは首を傾げて苦笑いした。残念ながら僕は基本的に優しくないので、追加説明はしない。そのうち僕の謎発言はテープくんの記憶の彼方に消えていく事だろう。
「あぁ気分を害したのなら謝るけどね、保護者から個性はなるべく自分から言うなって念を押されてるんだ」
「あ、あ〜…なるほどね。そゆこと。ならその事情も聞かないでおくわ」
「話が分かる人間で助かるよ」
正直、ヒーロー志望の人間の思考回路が僕に理解しきれる代物だとは思っていない。人助けだ何だと正義感に駆られている人間を見るのは息が詰まる。その正義感とやらは、きっとまともな環境で育った証なんだろうが、何だか僕を否定しているようにも見えた。
だがしかーし、今の生活を失うのは文字通り死活問題なのだよ。ショータの言った事、"最低限の関わりは持っておけ"というのは、いくら不本意だろうが多少守るべきだって訳だ。
「ごめん、まだ名前覚えきれてなくてさ。もう一回教えてくれる？」
我ながら虫酸が走る。謙った言い方は好きじゃないんだ。
「おう。瀬呂範太な」
「セロくんね。ありがとう、もう忘れないと思うよ」
とりあえずセロという音だけは覚えておこう。いつまでも「テープくん」だったり、何度も聞き返していたりしたら、オトモダチという関係からは永遠と遠ざかるだけだ。
まったく難儀なものだねぇ〜、いつまでこうしてようか。バイトでもしてお金を貯めて、こっそり姿を消そうか。でもそうすると僕の賭けの結果が得られない。
少しやんちゃでもすれば、ショータは僕を捨てるだろうか。
基礎学は対人の戦闘訓練だと言っていたなぁ…？
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作者名：すみた先生 | 作成日時：2022年8月17日 12時
