「通りすがりの少年さ」 ページ23
正直受験の前より、受験が終わって合格してからが物凄く面倒だった。
制服の注文はしなきゃいけないし、教材も買わなきゃいけない。ジャージや、ヒーロースーツの申請も必須だった。支払いはショータがやるにしろ、準備は僕の仕事らしい。
入学式を明日に控えた今日、遂に僕の集中が切れた。
「はぁ〜ムリ〜！」
色々詰まったリュックを放り投げて、近くに脱ぎ捨ててあったパーカーを羽織った。ポケットにお面を押し込んで、ついでに鍵も反対のポケットに入れた。ショータに言われた事だ、家を出る時は鍵を閉めて行け。どうやら不用心にあたるらしい。
春先の暖かい空気を吸い込んで街中を歩く。日曜の午後らしい賑わいの中、大通りから外れて暗い路地に入って行った。
すると、どこからか猫の鳴き声がした。
「ん〜？こんな所に猫なんて居たかねぇ……」
段々とハッキリ聞こえてくる。
行き止まりが見えると、そこには人間が1人。僕と同じような黒いパーカーをフードまで被って、ポケットに手を入れながら地面を見つめていた。
いや撤回しよう。地面じゃなくて、地面に置かれたダンボールだ。中から鳴き声が聞こえる。
「それは君の猫かな？」
「……誰だ」
少し掠れた、無遠慮で、如何にも不健康そうな声だった。僕はその男性に近寄って、同じように下を見た。
「ワハハー可愛いね。子猫？生まれたばっかりで捨てられたのかなぁ」
白い子猫が2匹、大きな目を僕に向けて二ー二ーと鳴く。
「君の猫？」
「知らない」
「へぇー」
「お前、なに？」
「通りすがりの少年さ」
少し顔を上げて息を吸うと、久しいような臭いがした。
「君ヴィランだね〜」
「……」
特に驚いた様子も見せず、男性はそのままの姿勢を貫いた。ん〜弄りがいがないと面白くないなぁ。もっと反応が欲しい。
「人殺した事あるよね？臭いで分かる、クソ溜めの臭いだ。いや〜久しぶりだなぁ君みたいなの。名前なんて言うの？僕知ってるかな〜」
「……同類か」
「系統が違うかな〜」
「……」
男性は急に動きだして、ダンボールに両手を突っ込んだ。そして2匹の首根っこを掴むと、たちまち子猫は崩れてしまった。まるで砂の造形のように、あっさりと。小さな悲鳴が最期に聞こえた気がしたが、まぁ些細な事だ。
男性はやっと僕に顔を向けた。楽しそうな薄ら笑い、荒れに荒れた肌が波打っている。
「やっぱりお前も同じだ」
「話が通じないのかい？」
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作者名：すみた先生 | 作成日時：2022年8月17日 12時
