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『ただいま〜』
「おかえり。ご飯美味しかったかい?」
『うん。中也といると太るから気をつけなきゃ。治も、織田作ばかりといたらアル中になるよ?』
「心配ないよ。安吾が止めてくれるもの。」
家に帰るとやはり兄は帰っていた。外套を脱いで、お風呂に入る準備をする。帰る前に買っておいたカニ缶をストックしなおし、部屋に向かった。
寝巻きを用意して、髪ゴムに指を引っ掛ける。ぱらり、と落ちた髪は量が多くて、重たい。
髪、梳かないと。
取り敢えずお風呂に入ってタオルである程度雫を拭き取った後、鋏を持ち兄の下へ行く。
『治』
「?こら、鋏を持ってうろうろしたら駄目。危ないよ」
『治だけには言われたくない。ねぇ、髪梳いてよ』
えぇ。と面倒くさそうに顔を歪める兄ににっこりと微笑み、カニ缶買ったから食べていいよ、と言った。
新聞紙を床に引いて、兄に背を向けて膝に座る。
『お願い』
「………Aは甘えん坊だね。いいよ、ついでに前髪も切ろう。だからまず、乾かさなきゃ。ドライヤー持ってきて」
ドライヤーを渡して座り直すと、細長い指が髪の間を何度もすり抜けていく。眠たくなって背中を預けたくなったけど、ドライヤーに頭皮が当たると痛いことは何度も体験しているので、耐える。
スイッチを切ったら、いよいよ鋏の出番。はらりはらりと落ちていく蓬髪をじっと見つめていれば、「長くなったねぇ」と声がした。
『長くないよ。やっと肩にかかるくらい』
「でも前までは項がちゃんと見えてたもの。伸びているよ」
『項なんか見てたの?変態』
「あのねぇ………」
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作者名:A | 作成日時:2018年3月19日 13時