No.158 ページ8
そのお店に向かって歩いていると、
木ノ下さんはぽつりと呟いた。
「……なんか、もう違うんだよね」
「え？」
木ノ下さんは
どこか、吹っ切ったような爽やかな笑顔を浮かべている。
「美穂は中学のこと気にしてたけど、
私正直そんなにもう気にしてないんだ。
……以前の私はどうしてこんな目に遭わなきゃいけなかったのって、
自分やクラスの人たちを責めてしまうばっかりだった。
でも、今なら逆、なんじゃないかなって思う」
「……逆、って？」
「あのころがあったからこそ――
あのいじめられた過去があるからこそ、
私は強くなれたんじゃないかなって」
「……強く……」
思わず俺は呟く。
「苦しくて、悲しくて、
……絶望的だった日々を。
そんなふうに考えられる日が来るなんて
想像もしてなかったんだけどね」
そう笑う木ノ下さんに、
俺はどう言っていいのか分からなくなる。
「……あと気づいたこともあるんだ。
目黒くんは弱音をはかない人だって」
「……別にそういうわけじゃ」
ふいと顔をそらすと木ノ下さんは笑い声を出す。
「ふふ、強がりだよね」
「…………あのさ、
……それでね、私そんな目黒くんを見守れるくらい強くなりたいと思ったんだ。
目黒くんは何か嫌なことがあっても心の中だけにしまっておいてしまいそうだから……」
「………」
悲しそうに俯いた木ノ下さんに、
俺はむに、と頬を引っ張った。
驚いた木ノ下さんは目を見開く。
「……木ノ下さんには言われたくないよ。
俺よりもよっぽど強がりのくせに」
そう言うと、むっと顔をしかられた。
「……そばにいるよ。
木ノ下さんが陰で泣かないで済むように。
だから、もう……」
一人で抱え込まないで、と呟く。
木ノ下さんはぎゅっと抱き付いた。
「目黒くんもね」
過去を乗り越えて、ようやく二人で前に進める。
これからも、
……そばでどうか笑っていますように。
-fin-
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月16日 20時
