No.157 ページ7
「とりあえず……目黒くん。
ごめんね、妹が」
「……別にいいよ。
妹さんの言ってることは理が通ってるし」
「……なら、いいんだけど……。
美穂、ひとつ勘違いしてるよ。
私は泣きたいのを我慢して泣かなかったんじゃない。
自分がそんなに辛くなかった――
ううん、違う。
……確かに辛かった――。
だけど、泣くほどのことじゃないって思ったからだと思う」
「泣くほどのことじゃない……？」
妹さんは怪訝そうにした。
「そう。
そういう意味では――
強くなったってことでいいのかな。
……私、目黒くんに言われたこと、
ちゃんと受けとめられてたから」
「……そうしてくれたのが
この人なの、？ お姉ちゃん」
「……うん、そうだよ。
目黒くんのおかげ。
そうじゃなかったら私、
いつまででも前に進めなかった」
「あ、ちょっと美穂！」
二階に上がろうとする妹さんを木ノ下さんがとめようとする。
妹さんは階段の途中で振り返った。
「デートでもしてきたらいいじゃん。
せっかくの休日なんだから。
……ちょうど、カップル割引券持ってるし」
捨てようと思ってたけどね、と付け足して手渡してくる。
……なんとなく、
妹さんはこうなることも予想していたんじゃないか
と思った。
彼女は彼女なりに姉を信頼していたのかもしれない。
「……どうしよう、これ」
手持ちぶさたな券を見せ、
俺の様子を窺うように木ノ下さんが尋ねた。
「せっかくだし、行かない？
行かないと妹さんに悪いから」
ぱっと表情が明るくなった木ノ下さんを見て俺は笑った。
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月16日 20時
