No.129 ページ29
「……まあ、それに気付いたのはつい最近だけどな――。
川波さんがお前にキスしたあと。
……まあ、今もその理由だとは思ってねえよ。
だけど、きっかけは――」
分かりきったその答えを聞くより先に、俺は問いかけた。
「木ノ下さんは、どうして向井を振ったんだ」
「……さあね。
流石にそんなことまで俺が知ってるわけないだろ」
俺は小さくため息をついて、だよな、と呟いた。
「……だけど、一つ分かることは――」
渡辺はそこまで言って、急にふっと笑みをこぼした。
「……お前が他人の恋愛を気にするほど、
木ノ下さんを気にしてるってことくらいかな」
俺は顔をしかめた。
「木ノ下さんに話してみろよ。
事情を知っていた俺と違って、木ノ下さんは何も知らない。
……それでも、
――あんなに頑なだったお前をここまで変えたのは彼女だ。
――お前は分からないかもしれないけど、
きっとどこかで、木ノ下さんに救われてた部分がある。
……それは、きっと木ノ下さんにも言えることなんだろうけど――」
含みを持った渡辺の言葉に、
やっぱり気付いていたのか、と思う。
……木ノ下さんが、何かにとらわれていたことに。
「……渡辺」
「……これでも、
お前のことは一番心配してるって自負してるよ。
――親代わりっつうか」
「お前を親とだけは思いたくない」
ばっさりと言った俺に、
マジで、と言って渡辺は笑った。
「……渡辺、悪い」
「貸し、一つな」
――そうして、俺は
渡辺にデートだのなんだのと適当な謀の内容を聞き、
木ノ下さんに話したのだった。
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月15日 18時
