No.114 ページ14
「――蓮」
「……どうしたの」
「……話したいことがあるの。二人っきりで」
状況を理解している渡辺が眉間にシワを寄せた。
「……いいよ」
「目黒、俺ら帰るな。
……悪かった」
……謝るなんて、本当に何かあったのか？
気になって仕方がないけれど今は川波さんのことだ。
「……なに、凛」
一ヶ月経ったのに、
結局慣れないな、と内心苦笑する。
名前を呼ぶなんて、慣れていないせいだろうか。
「――ごめんね、目黒くん。
……別れて」
……それに驚かないのは、
なんとなく分かっていたせいなのだろう。
俺は川波さんに笑いかける。
「どうして謝るの？
俺が付き合っていいって言ったんだよ。
むしろ、期待を裏切ったことを責めるべきじゃないかな」
違う、と川波さんは頭を振った。
「私、目黒くんと木ノ下さんを騙してた」
「騙してた？」
……向井じゃなく？
どういうことだ、と思う。
川波さんが好きなのは向井で、
向井が一向にそれに気が付いていないことに苛々していて……。
――どうして、
こんなに長く付き合う必要があるのだろうか。
ずっと疑問だった。
何の利益があるのだろう、と。
俺がいなくなってよかったのは
……一体誰なのか。
それを思い出した瞬間、
ふっとある考えが頭をよぎった。
「……そうか」
俺は口元を緩めた。
「川波さん、
君は向井に妬かれたいだなんて微塵も思っていなかったんだね」
本当の目的は、
……俺達だったんだ。
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月15日 18時
