No.113 ページ13
数ヵ月前。
川波さんが直接誘ったことには違和感があったけど、
どうやら気のせいだったのかと思い直す。
いつもと川波さんは何ら変わりがない。
……それにしても、
いつまでこんなことを続けるんだろう。
川波さんは向井に妬いてもらいたいと言っていたけど、
あいつはもう、
川波さんの気持ちに気付いているようだった。
……本人の前で、
気付かないふりをしているといっても、
川波さんにとっても反応がないのなら、
長引かせることは意味がないんじゃないだろうか。
ぼーっと考え込んでいると、
川波さんが急に俺を呼んだ。
「――あ、なに？」
ぐんと近づいていた距離に、内心驚く。
「……呼んだだけだよ」
川波さんはふふっと、意味ありげな笑い方をした。
「――Aっ！」
後ろから聞き覚えのある加藤さんの声が聞こえた。
……木ノ下さん？
振り返ると、
走り去る木ノ下さんと、
隠れている加藤さんと渡辺の姿が見えた。
「……あ」
やばいという表情で、
渡辺は口元を引きつらせる。
「お前さあ……」
完全に呆れつつため息をつく。
「ごめん、目黒くん！
私が行きたいって言ったの。
渡辺はそれに便乗しただけで……」
俺の前に立ち塞がった加藤さんは必死に訴えた。
……どうみても、こいつが言っただろ。
確信しながらも、
加藤さんが不安げにしているのを見て怒る気が失せた。
「……渡辺」
「ひゃいっ！」
変な返事にあえて反応しない。
「……木ノ下さんは？」
隣で川波さんがぴくりと動いた。
「あー……。
ちょっとショック受けたっぽくて……」
ばつが悪そうに渡辺は頭をかく。
「ショック？」
何のことで――と尋ねようとしたとき、
川波さんが俺の腕を引いた。
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月15日 18時
