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昔をまた、1つ、2つと思い出した。
私が泣いていると、いつも彼が不器用なりの優しさで慰めてくれたんだっけ。
急に雨が降って来て 、傘を持っていなくて濡れることしかできなくて困っていた私に傘を差し出してくれたのも、いつも彼だった。
___いや、これに関しては逆だな。「雨が降る」って私も先生も何度言っても変な意地張って「傘なんかいらない」なんて言ってびしょ濡れになっていた銀時に傘を差し出していたのはいつも私のほうだった。
なんだか昔のことを思い出したら馬鹿馬鹿しくなってきて、気が付いた時には涙が止まり、自然と口からは笑みがこぼれていた。
「きっと彼なら、私に傘を差しに来てくれるかもしれない」なんて、絶対にあり得ないことが起きると考えていたのかもしれない。
「そんな訳ないか..........」
少しでも期待してしまった自分に恥ずかしくなりながらも、溢れ出ていた涙を着物の裾で拭い、歩き始めた。
____そう言えばこの着物、昔銀時と一緒に買い物に行ったときに買ったやつだ。
病院にいた時はずっと、まるで白装束みたいな縁起の悪い病棟服だったし、そもそもずっと体調を崩してたから1人になってからはまともにオシャレなんてしてなかったから上物の着物なんか着ていたのは攘夷戦争中までだった。
一緒に買いに行っても勿論お金なんて全然持ってない銀時が買ってくれる訳もなくて。そもそも買ってもらおうなんて思ってもいなかったんだけど。
黒地に椿の花がかかれた、いつもより少し高かった着物。
「馬子にも衣装って言葉があんだよ」って馬鹿にされたけど、これを着て花見に行った時なんかは酔った勢いで「世界で一番綺麗だ」ってくさい事言ってくれたっけ。
私の心が晴れても雨はやまなくて、でももう立ち止まることもできなくて歩みを進めるけど、水分を含んだ着物はなんだか重く感じて、おまけに体全体が暑い気がする。熱でも出したんだろうか。死人なのに。
「とりあえずあのビルに行くのはやめて、どこかで雨宿りでもしようかな...」
頭の中がごちゃごちゃになっていて、そもそも何故あの建物に行きたかったのかすら忘れていた。
とりあえず引き返そうと、進行方向を反対にし逆方向に進もうとした。
「こんな雨ん中傘も差さずに歩いてたら風邪引くぜ?お嬢さん」
聞き慣れた声に振り返ると、大好きだった、大好きな銀髪の彼がそこにいた。
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作者名:あず | 作成日時:2022年10月31日 21時