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右も左もわからぬまま、見知ったようで知らない世界をゆ っくりと歩く。
道の真ん中をふんぞり変えるように歩く天人と、それを嫌な顔をしながらも抗うことをしない江戸の人々。私が死んだ頃の江戸となにも変わりない。
生前よりも天人が増えたのだけが気掛かりだった。
みんな何をしているんだろうか。私は攘夷戦争終結の2年後に死んだけど、その当時の動向を知っているのは辰馬と小太郎ぐらいの話で。
辰馬は先に戦線から離脱して、あれから大好きな船に乗って(吐いてるけど)宇宙各地を転々としながら商いをしていて、小太郎は国を憂い攘夷活動を行なっている....
かつての友達なんては思えない程、私じゃない他の誰かも知っているようなことしか知らない自分になんだか情けなくなる。
晋助と銀時は何をしているんだろう。晋助はあんなに先生のことが大好きで、先生のことも左目のこともきっとまだ目に焼きついたまんまなんだろう。攘夷活動をしているとは思うけど、一向に噂は聞かなかったな。
銀時は....一体どこで何をしているんだろう。
いや、どこにいるかなんてお互い知っていたはずだ。
国に追われる身である小太郎だって、最後の前には内密で見舞いに来てくれたのに。
銀時は最後のその時になっても来てくれなかった。
「一緒にいるって、約束したのに」
八つ当たり混じりの枯れた声は、私の周りに沢山の人がいきかっているのに誰にも届かない。
そりゃそうだ。「死人に口なし」って言うもんだし。こんな亡霊の八つ当たりなんて聞いたって不幸にしかならない。
____雨が降り出した。
茶屋の軒下に逃げ込む者、傘を買いにとコンビニまで走る者。気にせず歩みを進める者。様々だった。
既に人で溢れた軒下に私が入る場所もないし、誰にも見えないんだから傘なんて買えるわけない。
「こんな亡霊、惨めにびしょ濡れになるのが1番だな..,」
自嘲混じりに呟いた小さな声と共に、足元の大きな水溜りに自分の顔が浮かぶ。
泣きそうになるのを必死に口を結び堪えている、今の顔はすっごく不細工だ。
「もう.......なんなの......」
涙声でまた一つ声を絞る。雨に濡れる事しかできない自分にも、こんな所に飛ばした神様にも腹が立って、どうしようもないことだと分かっているのに涙は止まらない。
ただただ、自分が惨めで仕方ない。どうしようもないのに、こんな時でさえ思い出すのは彼との思い出ばかりだった。
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作者名:あず | 作成日時:2022年10月31日 21時