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ー紅玉の独白ー ページ21

怖がらせてしまっただろうか。


逃げるように部屋を出た俺は、少しの後悔と罪悪感に苛まれた。


中にAが居るドアに背を預け、小さく息を吐く。



(……吸血する気は、なかったんやけどなぁ)



少し悪戯してみようと思っただけだ。


どんな顔をするのか、気になっただけだ。


全然力も込めていない。


きっと直ぐに押し返されるだろう。


そう、思っていたのに。



(体に力、入ってへんかった)



カタカタと震えていた手を思い出す。


全く力の入っていない、真っ白な小さな手。


その手に、抵抗の様子はなかった。


……いや違う。


抵抗したくても、できない様子だった。


目の前の俺という存在に、吸血という行為に、酷く怯えていたから。



「はぁ……」



今度改めて謝ろう。


そう決めて、ドアから弾みを付けて離れると。



「さかた。話、終わったのか?」



どこからともなく、緑色の瞳が現れた。



「……うらさん」



本当に、この人はいつ現れるか分からない。


由緒正しい吸血鬼の一族の末裔なだけあって、本人の吸血鬼としての能力も輝かしいものだ。


昔から、気配を消すことなんてお手の物だった。



「お前、あいつに何かしてないよな」



少し睨みをきかせた目で探られて、俺は少し視線を逸らす。


実際に傷付けたつもりはない。


でも、何もしてない訳では無い。


どう反応すればいいのか、分からなかった。



「……まさか、何か……」


「それはAに聞いてや。俺、部屋戻るわ」



顔を顰めたうらさんの言葉を遮るように、俺はその場を離れる。


後ろからうらさんが何か言っているような気がしたけど、振り返らなかった。


すたすたと、自分の部屋へ。


住み慣れた場所へと、歩みを進める。


Aから、うらさんから、離れて。


曲がり角を曲がる。



ーーと。



「……っ、う……」



ぐらり、ぐらり。


地面が揺れる、歪む、沈む、堕ちる。


視界がふっと暗くなり、咄嗟に壁に手を付いた。



「……っ、はぁ…っ……く、ぅ……」



締め付けられるような息苦しさ。


腰が落ちて、その場に座り込んでしまう。


しばらく蹲って、どくんどくんと波打つ心臓を落ち着ける。


少し楽になった後、俺はゆらりと立ち上がった。



(……っ、嫌、やな……また……)



足はガクガクで、ふらついていた。


手には上手く力が入らなかった。



「……おなか、すいた……」



小さな独白は、誰の耳にも届かない。

18.柵の外の青年→←17.主人の真実



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ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!(´;ω;`) (2019年12月11日 1時) (レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
はる - 人外の作品大好きです!これからも更新無理のない程度で頑張ってください! (2019年8月11日 21時) (レス) id: 9386fcb447 (このIDを非表示/違反報告)
関西風しらすぅ@坂田家 - うわ…坂田さん可愛い…志麻さんどこいった…好きやわ…人外もんはいいゾ〜 (2019年7月6日 17時) (レス) id: f34e486c2f (このIDを非表示/違反報告)
風空 - 吸血鬼もの大好きです!また毎日の楽しみが増えました(*´ω`*)更新楽しみに待ってます!自分のペースで頑張ってください! (2019年5月27日 22時) (レス) id: 7d8b5dcb68 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:甘夏れもん | 作成日時:2019年5月26日 20時

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