一杯の蒸留酒 ページ8
夜も更け、一般市民は眠り、マフィアの時間となり始めた頃。
カランカラン、と心地の良いドアベルの音が響いた。マスターはグラスを拭きながら、いらっしゃいませ。と言ってきた。
_私はいつも通りの服装に戻し、バー・ルパンへ来ていた。
私が席に着くのと同時にカランと氷の入った蒸留酒のグラスが目の前に置かれた。
A「ありがとう」
短く告げ、グラスに少し口をつける
_私は本来蒸留酒は余り飲まない。だが、今日はこれを飲むべきだと判断したのだ。
_あの頃を思い出す為に。
すると、この店の看板猫が近寄ってきた。手袋をしたままだが撫でるとゴロゴロと喉を鳴らす
20分程して、カランカラン、と同じ音が響いた
A「彼にも同じ物を。私が払いますから。」
来店客の顔すら見ずに私はマスターに注文する
彼が席_私の隣だ_に着くのと同時に私と同じ酒が置かれた。
マスターはこちらに気を使ってか席を外してくれた。
??「久しぶりだね。Aちゃん。」
此方に微笑み掛けてきたのがわかるが、敢えて相手の顔は見ずに答える
A「ええ。お久しぶりです。_太宰さん。」
太宰「そんなに冷たくしなくても。お兄ちゃん寂しいなあ。」
A「そうですか。私の記憶よりもかなり随分と背が高い兄ですね。」
太宰「本当に冷たいねえ。あの頃の自分が羨ましくなるくらいだ。」
A「では…マフィアに戻られてはどうです?私からしたら、貴方には此方の世界の方が向いていると思いますが。」
私はそう告げると、グラスを取り少し口をつけた。
解っている。彼は何を言っても、もう、此方の世界に戻ってくることはない。
それが彼の親友の願いだからだ。
その彼を思い出す為、私はこの蒸留酒を飲んでいるのだ。
_人を救う側になれ。
夕日に染まる舞踏室。その入り口で私はその光景を見ていた。
…見ていることしか出来なかったのだ。
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作者名:夜 | 作成日時:2018年11月3日 22時