配合恋愛。 (ページ8)

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俺ページ8

楽屋に流れる沈黙。

どうやらメンバーは、
俺が対象になったからと呼び出されて遅れたらしい。
できればメンバーと同時に俺も呼んで欲しかった。

呼ばれたところで、状況を理解できたかと聞かれれば
それは別の話だけど。

「あー、いいから勝利は相手に挨拶して来い。
　マネージャーと車が外で待ってる。
　詳しいことはこれに書いてあるって聞いたから、ほら急いで。」

「え、ちょっと、健人くん？」

すると、
マリウスがプリントの束を俺に渡してきた。

急かすように手を叩きながら
床にあるリュックやらニット帽やらをまとめる健人くん。

「あ、今度どんな子だったか教えて。」

おもむろに手を止めたかと思えば
一言目にはこれだ。

「う、うん。それより撮影どうすんの？」

俺は服の裾を整えて
指令には適当に返事を返す。
ゴメンね、健人くん。今の俺にそんな余裕はない。

「あ、それは午後からになったから大丈夫。
　早く行っておいで？」

「うん、ありがとう。行ってくる。」

リュックの紐を片方だけ掛けて
楽屋の戸を開ける。

「いってらっしゃい、勝利。」

「グッラック！」

「勝利、勝利、報告よろしこ。」

「じゃ、俺も報告待ってるわ。」

そんな声に振り返りつつ
楽屋から廊下へ出る。

「はーい、いってきます。」

ぱとん……と扉が閉まり
俺は車へ急ぐ。

車に乗り込んでも
状況が飲み込めるわけではない。
窓から見える住宅街は
どこかレトロで淡い緑色をしている。

何分くらい移動しただろう。
考え事は時間感覚を無くすのかもしれない。

キィっとブレーキがかかった。

「ここからは、車は入れないから。
　この路地を真っ直ぐ行った辺にあるって聞いた。
　しっかり行っておいで。11:30にここへ迎えに来る。」

この言葉を受け取って俺は車から降りる。

「はい、ありがとうございます。いってきます。」

一礼をして車を見送ると
本当に誰もいない、いわば建物と植物と地面しかない空間が
そこにはあった。

「えっと、路地を真っ直ぐ行って……」

と、誰も聞きはしない一人言を発しながら路地を覗く。
猫がブロック塀の上で集会中だ。

「ごめんね、通るだけだから。」

猫達に会釈をしながら
路地を真っ直ぐに抜ける。

相手の名前は「水沢A」というらしい。
これはマリウスが渡してきたプリントの束にあったことだ。

誰もいないと思っていたが、
俯いて歩くブレザーを着た女性を見つけた。

「あのっ、水沢さんのお宅ってご存知ですか？」