秋霖。in ページ35
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辛いことも、楽しいことも、
乗り越えなきゃいけない壁や努力や。
なんやかんやが渦巻くこの世の中。
車が行き交うこの交差点で、赤信号の横断歩道。
たった数歩、前に踏み出せば
20何年か生きてきたこの人生もすぐに終わってしまうのだと考えたら、
命なんて案外呆気ないものだと思ってしまう。
。
あの日、あの夏祭りの日。
俺は自分にも彼にも甘えてしまった。
待っている、そう言った彼はあまりにも辛そうで。
でも自分からなかなか踏み出せないから。
知らないフリをした。
彼の本心にも、知らないフリをした。
本当は早く答えが欲しくて、どうしようもない。
そんな彼の感情をひしひしと感じていたのに、
見て見ぬ振りをしたんだ。
自分が一番楽な方法を選んだはずだった。
一番苦しくて辛いなんてあの時は思いもしなかったのに。
俺が無意識のうちに見えない糸で山田くんを縛り付けているのかもしれない。
帰りの電車。ゆらゆらと揺られながら、不意に先月言われた言葉を思い出した。
。
「......慧くん、もう来なくていいわよ」
初めて言われた言葉だった。
御線香の匂い、甘いお饅頭はテーブルの上に。
都会より少し離れたこの場所は、もうすっかり通い慣れてしまった。
「.....え...?」
頭が真っ白になって、呼吸が上手くできない。
何がいけなかったのだろうか。
俺の、何が。
「.....あ、慧くんが悪いわけではないのよ。....ただ...慧くんに余計な責任を負わせてるんじゃないかって、思って....ね...?」
そう言って仏壇でにこやかに笑っている彼に、微笑む。
その柔らかい笑顔は、泣きたくなるほど写真の彼に似ていて痛いほどあの頃を思い出させた。
温かく笑う目元には皺ができていて。
時の流れを感じた。
「...いえ、責任なんてとんでもないです」
「....でもね、もうあの子がいなくなってから、来週で六年経つの。」
「....慧くんがあの子の前で話すとき、とても辛そうに見えて。自分をずっと責めてるんじゃないか。って。」
そんなことない、その言葉は喉に詰まって声として出なかった。
「....あのね、慧くん。....宏太はもう大丈夫よ。.....宏太もきっと、慧くんに責任を負わせたくないって思ってるはずだから」
「....あなたの....大切な人ができたら、一緒にいらっしゃい」
俺の頭を撫でる彼女の目には涙が浮かんでいた。
あの日のように、外は雨が降っていた。
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konokuro(プロフ) - あひる☆さん» 1を最後まで読んで頂きありがとうございました^ - ^ 2も楽しみにしてくださいな! (2020年3月15日 21時) (レス) id: 8ceddc39fa (このIDを非表示/違反報告)
あひる☆(プロフ) - konokuroさん» 移行に行こう〜〜〜♪わーわー。。どきどきっ。。 (2020年3月15日 14時) (レス) id: 15b8e56e15 (このIDを非表示/違反報告)
konokuro(プロフ) - あひる☆さん» あひるん!!!コメントありがとうございます^ - ^ そんなこと言っていただけるなんて....!! こちらも早め早めの投稿を心がけます!^ - ^ (2020年2月29日 1時) (レス) id: 8ceddc39fa (このIDを非表示/違反報告)
konokuro(プロフ) - うさこさん» こんばんは。今回もお待たせいたしました...m(_ _)m そう思っていただけて嬉しいです^ - ^ そうなんです!複雑な感情と天気雨をかけてみました笑 晴れなの?雨なの?どっちなんだい!笑 (2020年2月29日 1時) (レス) id: 8ceddc39fa (このIDを非表示/違反報告)
あひる☆(プロフ) - 複雑な心情を読ませていただきました〜〜♪はぁぁー・・よい!よいなぁ〜〜。ちねさんのきもちっ!!またまた楽しみにまっとりますぅ〜〜♪ (2020年2月28日 18時) (レス) id: f52dbdb7e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:konokuro | 作成日時:2019年6月22日 23時