第五話 叢雨。 ページ21
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『.....だめだよ。男の俺なんかを好きになっちゃ。』
『.......ごめんね』
「......っは!」
あの日からずっと、俺は先生のことしか考えていなかった。
忘れたくて堪らないのに。
涙を流した先生の姿なんて、もう思い出したくもないのに。
遂には夢にまで出てくるようになってしまった。
知念と裕翔には、まだ言えてない。
分かってるんだ。二人は優しいから。
きっと、笑い話にしてくれる。
気を遣って「大丈夫だよ」なんて無理に励まそうとすることが無いってことくらい。
分かってる。
だからなのかもしれない。
優しすぎるから。
あんなに二人で応援してくれて、
男が好き。先生が好き。
だなんて言っても、拒絶せずに受け入れてくれたから。
言えない。絶対に言えないよ、
おもむろにスマホをタップすると明るい画面に思わず目を顰めてしまった。
ぼやけた視界で見れば、3時24分。
深夜に起きてしまったんだと溜息をついた。
時刻の下には7月27日の文字。
カレンダーに目を移すと、しっかりと赤丸がつけられていた。
。
待ち合わせ場所の神社の鳥居前。
夏だからか、もう夜の6時過ぎだと言うのにまだ空は橙色に染まっている。
元気に鳴いているセミ。
フラッシュバックしてくる先生の白い首筋。
頭を横に振って、平常心を保つ。
もう、駄目じゃないか。
今だって本当に先生が来てくれるかどうかなんて、分かんないんだから。
意図的に目を瞑ると、楽しそうに騒ぐ子供の声、屋台のおじさんの声。
彼氏に甘える女の人の声、仕方ないと言いながら嬉しそうな男の人の声。
一般的。
そう考えるならば、俺の想いは普通じゃないんだろう。
何でなんだろう。
なんで世間は性別で人を判断するようになったんだろう。
いや、それが普通なのか。
おかしいのか、俺。
「.....山田くん」
ぴたっと周りの音が聞こえなくなって、
久しぶりに聞いた声に動揺して、
体が硬直して、
何故だか無性に泣きたくなって。
でも、泣くなんてみっともないから唇を必死に噛んで耐えて、
そして、閉じていた目を開いた。
「....先生...?」
口に出してこの四文字を言うのも久しぶりだ。
なんで、先生
「....約束してくれたからさ。来ちゃった。」
そうやって、また柔らかく微笑むもんだから。
その優しさに。
その苦しさに。
その笑顔に、
やっぱり、無性に泣きたくなった。
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konokuro(プロフ) - あひる☆さん» 1を最後まで読んで頂きありがとうございました^ - ^ 2も楽しみにしてくださいな! (2020年3月15日 21時) (レス) id: 8ceddc39fa (このIDを非表示/違反報告)
あひる☆(プロフ) - konokuroさん» 移行に行こう〜〜〜♪わーわー。。どきどきっ。。 (2020年3月15日 14時) (レス) id: 15b8e56e15 (このIDを非表示/違反報告)
konokuro(プロフ) - あひる☆さん» あひるん!!!コメントありがとうございます^ - ^ そんなこと言っていただけるなんて....!! こちらも早め早めの投稿を心がけます!^ - ^ (2020年2月29日 1時) (レス) id: 8ceddc39fa (このIDを非表示/違反報告)
konokuro(プロフ) - うさこさん» こんばんは。今回もお待たせいたしました...m(_ _)m そう思っていただけて嬉しいです^ - ^ そうなんです!複雑な感情と天気雨をかけてみました笑 晴れなの?雨なの?どっちなんだい!笑 (2020年2月29日 1時) (レス) id: 8ceddc39fa (このIDを非表示/違反報告)
あひる☆(プロフ) - 複雑な心情を読ませていただきました〜〜♪はぁぁー・・よい!よいなぁ〜〜。ちねさんのきもちっ!!またまた楽しみにまっとりますぅ〜〜♪ (2020年2月28日 18時) (レス) id: f52dbdb7e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:konokuro | 作成日時:2019年6月22日 23時