[文スト]中原中也さんに取り憑いてるような形になった【男主】 (ページ19)

今日:5 hit、昨日:1 hit、合計:16,602 hit

１７．夢の中のモロスページ19

視点なし

チクリと胸が痛んだ｡
これは恋愛的な甘い痛みではなく｡
本当に苦しい痛みで、電撃が一瞬通ったのかと、勘違いしそうだった｡
誰かが癒禽の目の前に立っていた｡
黒いなにかだった｡
そのなにかは、人の形をしてはいるが、顔もなければ、確かな皮膚である確証を得れる肌色もほとんどなかった｡
ただ、黒い｡
イヤ、ただと言うには惜しい｡
顔はあると思う｡
白い仮面を付けているから、顔が見えないだけだ｡
そして、黒いマントを羽織っているが、袖口から少しだけ真っ白な指が覗いていた｡
その黒いマントのなにかは、口を三日月にして、口を開いた｡

？《アナタに呪槍(ﾉﾛｲ)を掛けました》

貴『…俺に…｡ン？……鏡か？』

癒禽の目の前に、楕円形の古びた鏡が浮かんできた｡
癒禽がそれを覗き込むと、そこには、矢張り自分が映っていた｡
だが、違っていた｡
右目の琥珀色の綺麗な瞳に、模様が浮かび上がっていた｡
その模様は、時計の文字盤であった｡
Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ……と、確かな檸檬色の文字が浮き上がり、その檸檬色よりも濃い溶けたオレンジ色の短針と長針が癒禽の右目にあった｡

貴『…時計？ンだよ、コレ』

？《その時計は、１２時になるとアナタの生命(ｲﾉﾁ)を喰います｡１２時になるまで、あと数ヶ月でございます｡その呪槍(ﾉﾛｲ)は、解呪(ﾄｹ)ることは無いでしょう｡そして、アナタにはもっと苦痛を与えましょう｡人の声を聴ける能力を授けましょう｡人の声が聴えることが、どれだけの苦痛か……味わってくださいね》

その黒いなにかは、クツクツと笑って、癒禽を見据えた｡
《アァ、そうそう》と付け加えるように、黒いなにかは癒禽に話しかけた｡

モ《私の名前はモロス｡よく、覚えておきなさい｡アナタが私の名前を呼べば、私がアナタと話してさしあげます》

貴『モロス……チッ【死の使い】とは偉いご身分だなァおい｡お前がいるってことはモイライが俺が死ぬと定めたか？ってことは、俺はタナトスとケールのどっちに導かれるんだろうなぁ？ケールは嫌だぜ？あの女霊のヤツ、エラいおっかないんだろ？はぁ……死ぬのは構わんが……タナトスの方がイイぜ……』

癒禽はそう言って、煩わしそうにモロスに手を振って、｢あっちへいけ｣とした｡
モロスは未だ笑って、《またのお越しをお待ちしておりますよ｡エトワル》そう言った｡
『…二度とくるかよ、阿呆モルス』そう言うと、癒禽はまぶたを閉じた｡