9.女の演技 ページ11
視点なし
中【おい!……おい!】
さっきから、コレである。
まだ廊下を数歩しか歩いていないが、癒禽はため息をついた。
貴『……なんだ、五月蝿い』
中【うっせェ!その服どうするんだよ!俺その服のまま社内歩くとか無理だぞ!】
貴『あ?服ぅ?……あっ…。そう言えば、この服のままだったな』
癒禽は今気付いたのだ。
まだあの化粧&ドレス姿のままだったということに。
だが、実際のところ癒禽には全くと言っていいほどにメリットもデメリットも無いのだ。
貴『着替えるっつっても、お前の部屋にしか服はねェだろ?』
中【そうだけど……。俺は、もう終わりだ】
そう言って話さなくなった中原中也に、癒禽は何も言わずに、そのまま歩いていった。
【……おい、もう歩くな】と中原中也が口を出した時に、黒服に呼び止められた。
黒1「おい貴様、見たことないが、誰だ」
貴『………』
癒禽は、サッと何処かから紙を取り出して、それに言葉を書いていった。
『すみません。声が出ないので、筆談にさせてください。私は、ここのボスである森鴎外様のお気に入りのエリスお嬢様のヘアメイクアーティストでございます』と書いた紙を見せると、少し黒服は考えて、「まあ、確認すればいいしな……よし、分かった」と言って、通り過ぎていった。
癒禽は中原中也に頭の中で『ここの監視って案外温いな』と言った。
無事に部屋まで帰りついた癒禽と中也は、即座に着替えようとしたが、後ろからトンっと突かれて、気を緩めていたために、ソファーへと体を委ねてしまった。
それでも、癒禽の"女の演技"が続行されていたため、実に優美に、妖艶にソファーへと体を預けてしまった。
目の前を見ると、先ほどの黒服が頬を赤く染めて、息を少々荒らげて、こちらを眺めていた。
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作者名:嬬基ヱ | 作成日時:2017年5月28日 19時