特級呪術師の桔梗 二【呪術廻戦】

第59話 内省失敗 ページ16

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虎杖には友達が多かった

オープンな性格だけでなく、人の心を読むのが上手だったから

スルスルと人の心に入り込んで、まるで幼い頃から団地で遊んでいたあの友達のようにすぐに肩を組むような人物だった


だからかも知れない


団地で遊ぶあの子の名前を覚えていないように

虎杖は良くも悪くも誰かの特別にはならなかった

誰も特別にはしなかった


きっと親友や恋人がいたのなら、あの日東京行きを即決しなかっただろう

全てを捨てて呪術の世界に入ってこれたのはそういった虎杖の冷たさがあったからである


だが今はどうだ


戸の向こうで何事もなくまた眠りについたであろう彼女は


自身が二度も無意識的に寄せられた彼女は


果たして虎杖の特別でないと言えるのか？



ところが、戸の前でしゃがみこむこの男はイカれているからかなんなのか

普通の人なら秒でたどり着く答えに一向に迎えなくて

自身の感情の説明が出来ずに事故だ、事故...と、熱くて苦しいその思いを押さえ込んでしまった


「...寝よ」

悩むのに体力を使ってしまったので、早々に感情の説明会は諦めて自室へと戻る虎杖


けれど、一つだけ気になることがあった


自身が口を寄せたその瞬間

涙を滲ませていた彼女が、ごく小さな声で

『お兄ちゃん、お兄ちゃん』

と、そう言い続けていたのだ


何があったのか、何の夢を見たのか

あまりにも美しく泣くものだから、その質問はどうしても口にできなかった


だからせめて

自身の気持ちにすら気づけなかった代わりに


彼女を、優しすぎる彼女を守ってやりたいと



それだけは心に決めた

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