あんスタ【もう1人の転校生】9 (ページ14)

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第91話ページ14

その後、射的とか、輪投げとか劇に、水族館を見てきた。

こんなに楽しかったの、いつぶりだろう。

風当たりがいい所に行きたいと言ったあたしは、今日のみ立入禁止の屋上に足を運んでいた。

ガヤガヤと楽しそうな笑い声の響く学院。心地がいい。

瀬名があたしの隣に立って、鉄格子に背を寄りかからせた。風に乗って、知った香りが鼻腔に微かに匂う。

貴｢あたしさ｣

急に語り始めたあたしの横顔を、真剣な眼差しで見る。それが何となく感じられて、口を挟まないのをお構い無しに言葉を続けた。

貴｢みんなを楽しませるアイドルになりたかったんだ｣

キラキラと一人一人が輝く、馬鹿みたいな夢を叶えたかったんだ。

貴｢ダンスを習って、物心ついた時にそう思った。もちろん、全部が全部楽しい事ばっかりじゃ無かったけど｣

辛いことと同じくらいに、嬉しいことも確かにあった。それは、事実なんだ。

貴｢でも、別れは必然的にやってきて無理矢理に引き剥がされるんだよね。望んでなかったのに、願ってもないのに…勝手にやってきて、勝手に連れてっちゃうんだよね｣

みんなに笑顔になってほしい。

でもそのみんなの中には、同じユニットメンバーや競走するクラスメイト、先輩、後輩、他校のアイドル学校生徒は含まれていないのか。

同じ立場に立つ人間を、あたしは笑顔に出来ていたのか。

貴｢その自信が全くないの。みんなにって言ったくせして、あたしは身内を泣かしてばっかなの｣

ぐっと背中を伸ばして、風を感じる。笑い声のBGMに乗せて瞳を閉じた。

貴｢あたしは夢を叶えられていないまま、人の幸せと人生奪ったの。罪深い人間でしょ？きっと、まだまだ頑張らなきゃなんだ、よ｣

──ね。

強い力で引き寄せられて、大きくなった彼の腕の中にスッポリと収まる。

微かな匂いが間近に香り、ドクンと打つ心臓の音同士が重なる。

抱きしめる力が強くなって、あたしの足は、少し浮く。

楽しいそうに笑うみんなの声をバッグに、あたしは強い意志を持って剣を握るその手に、少しの間、抱きしめられていた。