第89話 ページ12
ベンチに座って、あたしは無言でクレープを
自分の指についたクリームを舐め、瀬名の頼んだクレープに口を出す。
瀬名｢ちょっ、それ俺のじゃん｣
貴｢食べちゃうもんねーって忠告したでしょ｣
瀬名｢俺が払ったんだから、俺にも食う権利あるでしょ〜？｣
貴｢あたしを放ってゆうくんと、いちゃいちゃしてる瀬名が悪い｣
瀬名｢…なにあんた、妬いてんの？｣
食べる意欲が止まる。開いた口は一度閉じ、違います！と、再びかぶりつこうとすると、その手を掴まれ、瀬名の方に引き寄せられる。
1口瀬名はクレープを口に含んだ。器用に舌でクリームを舐めとる。動作がゆっくりで、艶めかしくて、掴まれている箇所が熱くなっているのを感じた。
瀬名｢ドキドキした？｣
貴｢してない｣
くっそ〜…いつもは、こんなじゃないのに。
瀬名｢ほら｣
長い指があたしの口元を触る。クリームだ。ついてたのか。
それを、ぺろっと舐めとって何やってんの！？と後退した。あたしの反応を楽しんでいるだろう奴の顔は面白そうにニヤニヤしている。
屈辱〜！
残ったクレープを二口で食べ終わり、立ち上がる。瀬名もよいしょと立ち上がり、
瀬名｢ほら｣
当然のようにある手。
渋々と手を重ねようとすると、強引に引っ張られ掴まれる。強い力が、あたしをぐんと引き寄せた。
瀬名｢グズグズしてると、お店全部見て回れないよ｣
貴｢全部って｣
瀬名｢初めての文化祭だろうし、学院のみんなもあんたに来てもらえたら嬉しいんじゃないのぉ？｣
貴｢あっ｣
なんで、初めてって知ってんの。
貴｢………ばか｣
瀬名｢なにぃ？｣
貴｢なぁんでもない！｣
負けないように踏み出して、走り出す。
今だけは、きっと明星のようにキラキラの笑顔でいられる。
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作者名：�� | 作成日時：2017年7月25日 10時
