第44話 ページ7
あれから、冷静な自分でいられなかったと思う…いや、いられなかった。
扉を開けずに中に入ろうとして頭ぶつけるし、机の脚に引っかかってこけるし、教科書を忘れて椚ちゃんからは怒られるし、必要以上に文房具を落として瀬名に拾ってもらっちゃうし…。
階段からはこけそうになるし、月永の廊下にばらまいていた楽譜を踏んで壁に鼻頭ぶつけるし、バケツの水零して椚ちゃんからは怒られるし…。
貴｢だぁぁあ！！！｣
何日もそんな鈍臭い日々が続いてイライラしてきた。誰もいない教室、自分の机を思い切り両手で叩く。
膝を机上について頭を抱える。前髪をかきあげてくしゃくしゃにする。
貴｢…｣
忘れいた訳では無いが、久々に聞いた『ミウラ』の名前が、強く突き刺さる。
ここ最近は色々とあったから余計に、かもしれない。
窓を開けて、サッシに手をかけてうわぁー！とか、叫んでみる。グラウンドにいた生徒達がこちらを見上げる。その中にいた鳴上と乙狩も驚いてこっちを見る。天満がおーい！と手を振っている。
やっほー☆と手を振り返して、窓を静かに閉めた。なんだか、恥ずかしかったなぁ…。
天祥院｢やぁ。今日も一段と元気だね｣
夕暮れに佇むその影に驚いて肩を揺らす。いつもと変わらず、浮かべている微笑みはぞっとするほど美しい。
何か用？と窓の鍵をかけて、後方の扉の施錠。机横にかけていたスクールバッグを肩にかけ教室の前方の扉へ。
壁にかかっていた鍵を掴むと、その上から大きな手があたしの手を包んだ。
天祥院を見ると、穏やかな笑みを浮かべたまま握る手の力を強くする。
天祥院｢この後、少し時間あるかな？｣
いつもの綺麗な髪色にオレンジが混じり、キラキラと夕陽を浴びて輝いている。
含んだ表情を疑いながら、あたしはＮＯと答えさせない威圧に負けて渋々首を縦に振った。
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作者名：�� | 作成日時：2017年7月9日 0時
