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声を辿って何度でも戻ってこよう ページ11

私は知ってるよ。

もう直ぐこの港を出る事、噂で聞いたの。

空気が夏から秋へ移りつつあるのに気付いた時に思ったの、夏と共に貴方達は去るんだって。

いや、違う、貴方達が夏を盗んでいくんだね。


「A」


…嗚呼、今日も来てくれた。

もしかしたら知らない間に出航してるんじゃないかっていつも不安なの、貴方は知らないだろうけど。

大丈夫、まだ出航してない、まだここにいる。

月明かりに照らされた彼の姿を見つめ、その姿を目に焼き付けた。

私の目の前にいる、彼は本物だ、現実だって、夢じゃないって……



「出航が、決まったんだ」



そう聞こえた瞬間、時間が止まった。

嘘?幻聴?何かの間違い?

そうなんでしょ、なのに、何で、貴方も辛そうな顔をするの。


「俺はこの港を離れる。もうこうやって会える事もない」


突き付ける現実に、私は思い知らされる。

私には、私達には、時間が足りないって事。

確実に失っていく時間を、もう取り戻す事も止める事も出来ないって事。


「船長命令なんだ」


でも、だって、そんな言葉しか口からは出てこなくて。

いざその日を目の前としたら何も考えられなくて。

頭が痛い。胃がキリキリと音を上げている。目眩。吐き気。

歪む視界。


「ごめんな」


一瞬、視界が暗くなる。

やめてよ、そんな顔で唇を重ねても満たされやしないよ。

ボロボロと私の目から溢れる何かを指先で拭うと、彼は何とも言えない顔で微笑んだ。


「それじゃあな」


嗚呼、この唇の温もりが消える前に、時間よ止まれ。

強く、そう願っていた。









.









風が夏の空気を運んでくるようになった。

また暑い夏が始まるのかと思うと、少し憂鬱だ。

いつしかの夏は、すごく楽しかったのにな…。


「よぉ」


はぁ、思い出してたら幻聴まで聞こえてきちゃった。


「無視するなよ」


……嘘、いや、そんなまさか。

勢い良く顔を上げる。

私の前には、ずっと昔にこの港を去っていった筈の彼が、変わらぬ笑みを浮かべて立っていた。

きっと今の私は、とんでもなく間抜けな顔をしているのだろう。


「なぁんだよ」


…どうして、ここに、いるの。


「レディに呼ばれた気がして帰ってきてやったんだよ。

……ただいま」


『………馬鹿、イカサマ!おかえり!』




人は相手の声を一番初めに忘れると言うけれど、貴方の声、一時も忘れる事はなかったよ。

誤解の紐を解いて【ホラウソー】→←8月下旬の昼下がり【ギター】*



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うねゆ(プロフ) - みつはさん» そうなんですごめんなさい〜(>_<;)募集再開した時にまたコメくれると嬉しいです…! (2018年9月4日 11時) (レス) id: 2ba56a09e4 (このIDを非表示/違反報告)
みつは - ごめんなさい!リクストップでしたね^^; (2018年9月1日 0時) (レス) id: 7451b40fcd (このIDを非表示/違反報告)
みつは - トリックさんとの作品が読みたいです! (2018年9月1日 0時) (レス) id: 7451b40fcd (このIDを非表示/違反報告)
うねゆ(プロフ) - コーメさん» こちらこそありがとうございました!リク受付再開した時にでもまたよろしくお願いします〜! (2018年8月29日 19時) (レス) id: 2ba56a09e4 (このIDを非表示/違反報告)
コーメ(プロフ) - こんにちは!ありがとうございました!めっさ素敵です♪今度またリクエストさせていただきますね! (2018年8月29日 18時) (レス) id: 08b329afd6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:うねゆ | 作成日時:2017年8月18日 22時

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