【d!】仮初の言葉でも (ページ18)

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3幕1場ページ18

ふー……っとゆっくり息を吐く

今日はとうとう舞台の幕が上がる日

『オペラ座の怪人』初演だ

さすが大手の劇団と言うべきか

チケットは売り始めて即完売

席は満席の状態で演技をしなければならない、のだ

今私がいるのは控え室

ヘアセットもメイクも完了しドレスを着ようとしている

……しかしあれだ

背中のチャックが上がらない､､､

『ねえ、鬱』

共に姫宮への『復讐』を目指すうちに距離感の近くなっていた鬱を呼ぶ

鬱はオペラ座の支配人、アンドレの役

2人いる支配人のうちの片割れだ

彼もなにかと忙しそうだが私の呼び掛けには答えてくれた

「どしたん？ハナちゃん」

『､､､後ろの、チャック、あげてくれない？』

プレイボーイと噂される彼に肌を晒すのは嫌だったが

今この場にいる中で信頼できるのは鬱だけ

､､､この人に頼むしかない

「あ、ええよ〜」

鬱は案外快く承諾してくれたので安心して背中を任せる

すると彼は優しい手つきで私の髪を抑え、ジジーッとチャックを上げた

ありがとう────と言おうとしたら

「､､､ハナちゃん」

『っ！』

急にバックハグをされてしまった

予想外の感触と温かさに戸惑っていると

鬱はそれだけでは飽き足らず首筋に手を添えてきた

『ｯ､､､』

さらりと怪しい手つきで首筋を撫でられれば思わず体がビクッと跳ねてしまう

私のそんな姿を見て鬱は怪しく笑みを浮かべて

「､､､ん」

『っ、何して』

首筋に────やさしいキスを落とした

驚いて思わず突き放そうとするとその前に鬱が自分から体を離した

､､､体が熱い

彼はそんな私を見てニヤニヤと笑っている

そしてこんなことを言った

「ええやん、カルロッタっぽいで、その色気」

『､､､こんなことをしておいて演技のためだったとでも？』

「事実、そうなんや。────勝ってな、姫宮に」

､､､鬱は本当にずるい

演技のためだなんて言われたら

姫宮に勝ってなんて言われたら

私は彼の行動を受け入れるしか無くなってしまうじゃないか

『､､､有難う、アンドレ』

そうして鬱が演じる役の名前を呟けば、自分がカルロッタになれたような気がする

……もはや姫宮なんてどうでもいい

私は私に出来る最高の舞台を演じればいい

味方でいてくれた鬱、そしてショッピ、ロボロ、トントンのためにも

私はそれでいい