陽炎 (ページ6)

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文化祭の季節になった

コスプレカフェなんて、ちんけでつまらない。

受付を任された私は自分の仕事なんてどうでもよくて
廊下を行き来する人混みの中に、
好きな人の姿を探している。

ぼーっとしていたら次のシフトの子が交代に来て、
席を外すとずっと探していたジフン先生を見つけた。

意思もなくふらりとその背中を追いかけると
先生は立ち入り禁止の屋上へ続く階段を登っていく。

「先生がこんなとこ来ちゃっていいの？立ち入り禁止なのに」
「…Aか」

振り返った先生は眉を下げながら目を細めて私に笑う

いつも私を優しく誤魔化す時みたいに。

「なんか、いつもと雰囲気違うな」

私は恥ずかしくなって
黒ずんだ上履きのつま先に視線を落とす

「可愛いじゃん」

そんな一言で舞い上がれるほど
私は子どもじゃない

けれど素直な鼓動はトク、トク、と
少しずつ激しさを増していく。

「こんなとこ来てないで早く戻れ、ほら」
「先生こそ、なんでこんなところにひとりで」
「高校の文化祭は二度と戻ってこないんだぞ」

先生はいつだって
先生でいることをやめない。

…それでも、

「私は、先生がいればそれでいいの」
「…」
「先生を追いかけてここに来たんだよ、文化祭なんてほんとはどうだっていい」

むし暑い夏の前の空気
少しずつ見え始めてきた夕陽
生ぬるい風に靡く髪と制服のスカート。

全てが今の私を後押しした。

「……先生のことが、好きなの、…」

自分でも感情の整理ができなくて、わけわかんなくて
涙が溢れて止まらなくなった。

「せんせっ、…」
「…」

ふわりと先生の匂いがしたと思ったら

「…へ、」

先生は俯いていた私を
優しく抱きしめた。

なんでそんなことするの。

私のことなんて何とも思ってないくせに
そんなふうに抱きしめたり、
頭を撫でたりしてないで。

優しくしないでよ。

そう思うのに、抱きしめられてる私の耳元で心地よく聴こえてくる鼓動が
また先生への気持ちを積もらせていく。

「ごめん」

先生はそれ以上何も言わなかった

気持ちに応えられなくてごめん？
それとも、

優しくしてごめん？

それを聞く勇気なんて
私にはまだ無かった。