ゼロからはじまるストーリー

29 ページ30

「尚さん、あの……寄ってもいいですか。夜ご飯食べてなくって」

私は途中あったコンビニを指差して言った。
尚さんは「どうぞ」と言いながら、コンビニの方へ足を向けた。

店内を物色し、お腹は空いているけれど深夜という時間帯だから、ということで少し控えめに、サンドウィッチを1つと、申し訳程度のサラダを手に取った。
横から忽然と消えた尚さんの姿を探すと、彼はデザートが陳列されたコーナーに1人佇んでいた。

「コンビニのデザートって、とても魅力的に見える時がありますよね」

例えば私だったら今とか、と冗談めかして言うと、尚さんは、「そうですね」と返した。

「食べたいですけど、深夜だから……身体に悪いですよね」

きっと尚さんはわざわざ口に出すことはないだろうけど、どうしてもお医者さんの前で不健康になるような行動をすることは気が引けた。

「食べたら良いんじゃないですか。確かに身体に良くはないですが、無理に我慢することもないと思いますよ」

そう言って尚さんはチョコレートが使われたデザートを手に取った。甘いものとか、食べるんだ。いや、私に気を遣ってくれたのかも。

「……何か」

「あ、いえ、ただ……」

「ただ」

「甘いものお好きなのかなあって」

尚さんは私と手に持ったデザートを交互に見た。そして、「特別好きと言うわけではないですが」と言った。

「そうですよね、手に取ったからって、」

「ただ」と遮るように尚さんが言った。

「チョコレートは好きです」

「チョコレート……！そうなんですね」

尚さんの意外な好きな食べ物を知って、少し可愛いなんて思ったけれど、そんなこと、彼には言えなかった。

30→←28

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す