*.**.…Episode 10….**.** ページ10
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そして彼はスカイブルーの目を細め、フッと優しく笑って私の顔へ手を伸ばした。
そして、私の頬に触れたのだ。
私はそれを全くもって抵抗しなかった。何故なのかは分からない。
……でも、嫌じゃなかった。
「神威…」
私は初めて彼の名を呼んだ。自然にポロッと口から零れたそれは彼を大層驚かせたようだった。
神威は僅かに目を見開き、そしてまた目を細めた。
「…アンタ、片付け忙しそうだったのに…俺の名前…、覚えててくれてたんだ」
「いくら地獄耳でも貴方のこの名前だけは何故かよく聞こえたのよ。…覚えてしまったのよ」
そしてこのなんとも言えない穏やかな雰囲気に促されるように、私も神威の透き通るような白い頬に手を滑らせる。
本当に男なのかと疑うに値するその白い肌は妙に艶めかしくて少し触るのに戸惑った。
でも、彼が私を見る目も私が彼を見る目も、お互いに妙な熱を持っていたのだ。
その説明し難い熱はお互い頬に触れる寸前でも伝わってくる。
その熱は頬にじんわり伝う温かい熱だけではなく、それ以前に互いのその"狂気の目"に見惚れる眼差しの熱なのだ。
「………信女…」
彼も同じように私の名を呼ぶと、俊敏に身体に何かが駆け巡った。それは先程の熱と似たもの。
だがそれよりも名を呼ぶ声を聞いた瞬間、私は我に返ったように彼から手を離した。
「ちょっと待って。…貴方何で私の名前を……」
私の訝しげな表情に神威は何の焦りもなく淡々と答えた。
「あー、それはさっきも言ったでしょ?俺はアンタが倒れる前……つまり、俺ンとこのバカどもがアンタ等にナンパした時から見てたんだよ。まあ、正しくは阿伏兎と夜遊びしてた時にたまたま通りかかったんだけど」
ーーーーなるほど、そういう事だったのね。
私はとりあえず安心した。何故ならこの金持ちの世ではこういうスパイが多々存在するため、警戒を強くするよう言われているからだ。
地道に君主である者の懐を探るため、まずその部下や関係者と関係を持つという手が多いのが現実だ。
仮にへなちょこスパイの場合は先程のようにポロッと名乗ってもいない名前を先に読んでしまって捕まるというのがオチになるのだ。
私は納得するとふたたび歩き出す。神威も私が理解した事に気付いたのかニコッと笑って後に続く。
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威信 - すごく面白かったです! (2020年1月21日 19時) (携帯から) (レス) id: effeeaf02a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:交差点プリン | 作成日時:2017年6月21日 0時