*.**.…Episode 8….**.** ページ8
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私が慌てて彼を引き止めるように口を開くけれど、G嫌がそれを許さず口を挟む。
「なりませんぞ、お嬢様。もうすっかり夜が更けていますし、この後すぐにピアノのレッスンで御座いますぞ」
「……うう、確かにそうだけど…」
私はガクッと肩を落として心底落ち込んだ。
もう少し彼といたい。
それが私の本音だった。だってあの時、私を助けてくれたあの時…、私は一瞬にして貴方に虜にされてしまった。貴方で心がいっぱいだった。もう自覚はある。
そう、私はこの人のことが____________________……、
私の落ち込み具合に彼はキョトンとしたままこう提案してくれた。
「んー…、じゃあまた会いにきてあげようか?」
あまりの意外な言葉に私を含めて信女さんもG嫌も彼に驚きの眼差しを向ける。私は驚きもあるけど、それよりも嬉しさが込み上げてきて思わず歓喜の声を上げた。
「ほ、ホントに!?良いんですか?」
「うん、ここの料理気に入ったしね」
「はい、来てくれたら毎回ご馳走しますよ…!」
「…それに気になるものも出来たし……」
彼はそんな妖しい笑みをチラッと信女さんに向けていた。でも、信女さんはお料理の片付けを指揮っていて彼の視線に気付かない。
彼が何故信女さんを気にするような視線を向けるのかこの頃の私は知る由もなかった。
ただ自分の気持ちにだけ気付いて、この恋心を彼と育んでいこうと思っていただけだった。
G嫌が部屋にあるカチコチというリズミカルな音を奏でるアンティーク時計を確認すると、私に声をかけてきた。
「お嬢様、そろそろ時間ですぞ」
G嫌は急かすように私の腕を掴んで扉の方へ歩を進める。
私はそんなG嫌に「待って!」とだけ叫ぶと後ろにいる笑顔のままの彼に遠慮がちに、でも大きな声で話しかけた。
「あ、あのっ…!名前…、貴方の名前を教えて頂きませんか…!」
まだ名前も知らない彼。せめて最後に貴方の名前を教えて…。
たとえ大勢の人混みで賑わうパーティーの中でも貴方の声なら聞き逃さない自信がある。貴方の声で聴かせて、貴方の名前を。
「俺は神威。夜兎工業高校の3年Ω組で、番長の夜兎神威だよ」
神威____________________。
私はこの名を死ぬまで忘れることはないでしょう。
神威さん、
私は貴方に恋に落ちました________________________________________……。
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威信 - すごく面白かったです! (2020年1月21日 19時) (携帯から) (レス) id: effeeaf02a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:交差点プリン | 作成日時:2017年6月21日 0時