第五十五話 果たして其れは夢なのか ページ8
赤い、赤い舌が口から覗いた。
ペロりと傷口を其れが舐める。
微かに走るぴりりとした痛みに織田は片目を瞑る。
「・・・淳」
織田ははぁ、と溜め息を付き首を振る。
「止めろ 此の位の傷『舐めれば治る』という言葉も
有るが舐めなくても治る」
実際は其れは只の比喩で治る訳じゃない。
只々、如何しても目の前の光景から意識を逸らしたいだけなのだ。
「お前は首領の側に何時もいるのだろう?
其れなら此の位の傷の手当位できる筈だ」
「何が目的だ」
織田の言葉に微かに目を細めると淳は『ふふ』と笑った。
『織田作さんは本当に鈍感ですね・・・』
「そうか?俺は感は鋭い方だと思うが・・・」
其の言葉に淳は少し悲しそうに笑みを浮かべる。
カランとグラスの中の氷が音を鳴らした。
『そう云う事では有りませんよ』
グラスを持ち、それを傾ける。
織田は淳を不思議そうに見つめたままだ。
"何故、気付いてくれない____"
流れ込んだ其れをこくりと飲み干す。
飲み干したグラスを置き、そのまま机に突っ伏した。
織田の「淳?」と云う言葉が聞こえるが彼女は何も返さない。
『気付いてくれても いいのに・・・・・』
織田には聞こえる事の無い小さな声で淳は呟いた。
アルコールが入っている為か、それとも疲れからなのか、淳は強烈な眠気に瞼をゆるゆると下ろした。
彼が、何かを云っていた気がした。
然し其の言葉が聞こえる前に、
淳の意識は完全に暗闇へと堕ちていった。
.
.
.
ぼんやりと漂う意識の中。
彼が、あの優しい香りのする彼が、私を抱き締めて呉れていた気がした。
とてもとても暖かくて、嬉しかった気がする。
「淳・・・_____」
優しげなテノール声と共に唇に何かが触れた気がした。
躊躇いがちに触れた其れが心地善くて、浮上しかけた意識はまたぼんやりと沈んでいく。
「淳」
嗚呼、心地善い。
ずっと、ずっと此のままなら良いのに。
あの残酷な現実から逃げられたら良いのに。
本当は人なんて殺/したくなかった。
人々の逃げ惑う時の悲鳴や悲痛な表情、そして彼に気付いてもらえない私の気持ち。
せめて、夢なら醒めないで欲しい。
もう少し、もう少しだけ此のままでいさせて____。
『大好き です・・・織田作さん』
彼女の無意識の内の言葉を聞いた彼は一体どんな顔をしているのだろうか?
其れは彼本人にしか判らない。
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中也さん誕生日おめでとうございます! 04/29
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RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» いえいえ、大丈夫ですよ。 (2018年5月11日 21時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)
無断転載禁止 - 私の勘違いでご迷惑をお掛けしましたすいません (2018年5月1日 7時) (レス) id: ad49824d41 (このIDを非表示/違反報告)
RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» アイビスペイントにて描きましたので一応証拠として写真を一時的にあげておきますね。 (2018年4月22日 10時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)
RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» 本垢なら「とっちー」という名前のはずですが・・・。 (2018年4月22日 9時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)
RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» それは私です。本垢か文スト垢かどちらのイラストを見たのかは分かりませんが「雨雫」という名前ですよね? (2018年4月22日 9時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨雫 | 作成日時:2017年4月11日 15時