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第六十三話 会合 ページ18

「いやぁ・・・其れにしても何と美しい方だ」


二度目の会合。

淳は目の前の男ににこりと最上級の笑みを贈る。


高級ホテルの最上階、ヨコハマを一望できる場所。

政治家や著名人の多くが訪れる最高級レストランの特等席で淳と相手の男は食事をしていた。


主菜である魚料理を綺麗に切り分け、男は尋ねる。


「そう云えば・・・

名前を未だ訊いていませんでしたねぇ」


グラスに注がれたシャンパンから泡が立ち上り、直ちに消えて行く。

それを少し憂鬱な目で追いながら、淳は口を開く。


『石川 淳と申します』


紅の引かれた唇から鈴の音のように透き通った声が漏れ、男はその声を聴きほぅとため息をついた。


「善い名だ

貴女のイメェジ通り美しいですね」

『私には勿体無い言葉でございます』


くすりと少し可笑しそうな笑みを零す。

男の視線はあちこちを移動している。


紅を引かれた形の良い唇。

白くキメの細かい肌。

店内の暖かさから若干紅く染まった頬。

白い首筋から微かに覗く鎖骨。


男の視線に気付いていながらも淳が男に対して何かを指摘する事は無い。


「さ、呑みましょう」


男は未だ口付かずの淳のグラスを見てにこりと笑みを浮かべる。


「ルイ・ロデアール・クリスタルという高級シャン
パンです

味は他に比べ格別ですよ」


会合という手前、あまり断る訳にもいかない。

『では失礼して、』そう言葉を紡ぎグラスに口を付けた。


口内に流れ込むシャンパン。

確かに味としては他の比べ物にもならない位、美味しい代物だ。

しかし、こちらとしてみては混ぜ込まれた薬品の匂いと味の方が何十倍も脳に残る。


はっきり云えば、味が台無しである。


何の薬品が混ぜられているのやら、淳は『とても美味しいです』と口に出し人受けの良さそうな笑みを張り付ける。

男の思惑に気付いていながらも、淳が素の感情や表情を出す事は無かったのだった。





.





.





.





どれ位経ったのか。

店の時計を見るが数字や針がよく見えない。


淳はそれを確認しながらは、は、と犬のような浅く早い息をした。


『っ・・・』


視界が霞む。ナイフやフォークを握っている手に力が入らない。

霞む瞳をちらりと自身の手に向ければしっとりと汗ばんだ手は細かく痙攣していた。


淳の頭に真っ先に浮かんだのは"薬"という一文字だった。

第六十四話 悪作用→←イラストPart2



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RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» いえいえ、大丈夫ですよ。 (2018年5月11日 21時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)
無断転載禁止 - 私の勘違いでご迷惑をお掛けしましたすいません (2018年5月1日 7時) (レス) id: ad49824d41 (このIDを非表示/違反報告)
RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» アイビスペイントにて描きましたので一応証拠として写真を一時的にあげておきますね。 (2018年4月22日 10時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)
RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» 本垢なら「とっちー」という名前のはずですが・・・。 (2018年4月22日 9時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)
RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» それは私です。本垢か文スト垢かどちらのイラストを見たのかは分かりませんが「雨雫」という名前ですよね? (2018年4月22日 9時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雨雫 | 作成日時:2017年4月11日 15時

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