episode98＿＿一歩 ページ2
✘
「はぁ……複雑だ」
チームYとチームZの第四試合が終わって、スケジュール通り自由時間を貰った私は行くあてもなく廊下をさまよっていた。脳裏に巡るのは先の試合の事ばかり。
「これがこの先もずっと続くのか……きっついなぁ」
吸い寄せられるようにして 壁に寄りかかる。自分が思っている以上に選手たちに情が湧いてる。マネージャーの仕事をしてるんだから当然といえば当然。だからこそ割り切らなければいけない。
チームYの得点王はこの調子で行けば大川になる。どちらにせよ一次選考が終わる頃には、それ以外の選手達とお別れすることになるんだ。
「……それは、寂しいな」
静寂とした廊下では、私の独り言はやけに大きく響く。暫くの間頭を抱えるようにして片手で目を覆っていると、私の耳に人一人分の足音が聞こえてくる。
その音は奥の方から段々とこちらに近づいてきて、顔を上げた時にはちょうど私の前を誰かが横切った。
「あっ」
───二子だ。
私が声を上げると、二子も気づいたようで少し先で立ち止まる。だけど背は向けたままで私の顔を一向に見ようとはしない。その背中は微かに震えていた。
「二子、だいじょう……」
「大丈夫です。問題ありません」
私の台詞を遮って、被せるように言葉を放った二子。全然大丈夫そうには見えない。声は涙ぐんでいたし、肩も背中もさっきより震えが大きくなってる。手だって拳を作って震えていた。
「泣いてる？」
「……ッ泣いてません」
「(泣いてるじゃん)」
鼻のすする音が聞こえる。私はいつもこんな時、何もしてあげられなかった。ううん、違う。見るのが辛くて嫌だったんだ。私は ずっと選手が悔しそうに泣く姿から目を背けて逃げてきた。
──でも今なら、なんとなくどうすればいいのか分かる。そう思った時には体は自然と動いていて、気づけば私の手は二子の背中を擦っていた。
「かっこよかった。凄い試合だったよ」
「……でも負けた、負けたら意味ないんですよ」
「そんなことない。まだチャンスあるじゃん」
「チャンス、なんて……ッ」
「世界一のストライカーになるんでしょ？なら諦めんな」
唇を噛み締めるようにして放たれた「余計なお世話です」という言葉には 以前までのような棘は感じられなかった。
慰めというにはあまりにチープな言葉だったけど、きっと私の気持ちは二子にちゃんと伝わったはずだ。乱暴に涙を拭って、歩き出したその背中はまだ絶望なんかしていない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 604人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はもに(プロフ) - かっぱさん» かっぱさん、はじめまして！励みのコメントありがとうございます。一番なんてお言葉頂けて感無量です、、❕これからもご期待に添えられますよう頑張りますᵕ̈* (2023年2月20日 0時) (
レス) id: ad43313898 (このIDを非表示/違反報告)
かっぱ - このお話本当に大好きで、一番気にいってます♡これからも応援してますね!! (2023年2月19日 21時) (レス) @page49 id: 3275caf583 (このIDを非表示/違反報告)
はもに(プロフ) - 七子さん» 七子ちゃん、感想投げてくれてありがとう❕ ちょっとドギマギの三角関係ではあるけれど、話の落とし所はちゃんと決めてるので見守ってもらえると嬉しいᵕ̈* いつも応援してくれて励みもらってます！これからもよろしくね❣️ (2023年2月17日 0時) (レス) id: ad43313898 (このIDを非表示/違反報告)
七子(プロフ) - 潔が好き⁈⁈⁈そんなの…そんなのあんまりよ‼︎二次創作でレオと存分にイチャつかせてやるんだから（現実逃避） (2023年2月15日 21時) (レス) @page35 id: 749c6d74de (このIDを非表示/違反報告)
はもに(プロフ) - 凛香奈さん» 凛香奈さん、初めまして！繰り返し読んでいただけてるという事実に感極まってしまいました🥲ここ最近更新の時間帯が不定期ですが、引き続き頑張っていきたいと思います！応援ありがとうございます🙇♂️とても励みになりました！ (2023年2月13日 0時) (レス) id: ad43313898 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：はもに | 作成日時：2023年2月7日 18時
