Episode 29 ページ32
ポルナレフ捜索開始から早一時間。皆の心配がピークに達する。
焦りの余り、声すら出ない。沈黙が続く中、波の音だけが心地よく響いた。
「…あれ」
草の根をかき分け、必死にポルナレフを探していると、いつの間にか島の奥へと進んでいた。先程より木々が増え、背丈の高い草が行く手を阻んでいた。
暫くその場で立ちすくみ、思考を回転させる。
__迷子だ。
結論が出ると、Aは深くため息をついた。
ミイラ取りがミイラになってしまった…
結果として、自分は足でまとい以外の何物でもないのだ。Aは自分の無力さを改めて実感する。
星空に輝く月を見上げた。
溢れんばかりに溜まった涙が零れないように。
ふと、声が聞こえる。
自分の名を呼ぶ声が。
「A…?」
後ろから聞こえた涼やかな声。咄嗟に振り向くと、そこには息遣いの荒い花京院がいた。膝に手を当て、呼吸を整えている。
「びっくりしたよ、いきなりいなくなるから…」
「花京院…」
堪えていた一粒の涙が、つぅっと頬を伝う。月の光を反射して、キラッと宝石のように光った。
何故泣いたのか。そんなことは分からなかった。自分が迷惑をかけたから?自分を見つけてくれたから?
…彼がここまで、自分のことを心配してくれたから?
ひょっとしたら、その全てなのかもしれない。
ただ、混乱したAの頭の中で整理しきれるほど、簡単な問題ではなかった。
ただただその場で立ち尽くし、呆然と花京院をみつめるA。頭の中で目まぐるしく様々な感情が渦をまく。
こんな時は、一体どんな表情をすればいいのだろう。
「ねぇ、花京院」
「…なんだ?」
無意識に、口が動く。
月明かりに照らされ、少し大人びた雰囲気を醸し出すAを、花京院は優しい瞳で見つめた。
「私ね、このまま皆と旅をするか、悩んでるの」
緩慢な動きで、Aは花京院へ歩み寄る。
「何の能力もないただの一般人が」
悲しげで、それでいて艶かしい表情を浮かべたAを、花京院はずっと見つめた。
「あなた達とずっと一緒にいていいのか」
雑草を踏む、ザクザクという音だけがその場に響く。それほど大きくないAの声が、驚くほど浸透した。
「ただの足でまといじゃないのか。ずっと悩んでるの」
花京院と人一人分まで詰め寄り、立ち止まる。花京院の紫色の瞳に、可憐な少女が映った。
「___」
Aの声は、大きく吹いた風に溶けていった。
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東雲(プロフ) - 海守青空別垢さん» 応援ありがとうございます!頑張ります(*^^*) (2018年9月15日 0時) (レス) id: cea307c8ed (このIDを非表示/違反報告)
海守青空別垢 - 頑張ってください!(^^) (2018年9月14日 21時) (レス) id: b3f5a03222 (このIDを非表示/違反報告)
東雲(プロフ) - 海守青空別垢さん» わあああい!!ありがとうございます!嬉しいお言葉頂きました!これからも何卒宜しく御願い致します(´ー`*) (2018年9月3日 14時) (レス) id: cea307c8ed (このIDを非表示/違反報告)
海守青空別垢 - この作品大好きです!僕もこんな神作書いてみたい(´・_・`) (2018年9月3日 10時) (レス) id: b3f5a03222 (このIDを非表示/違反報告)
東雲(プロフ) - もちこさん» コメントありがとうございます!そんな勿体ないお言葉を……!ありがとうございます、励みになります( ^P^) (2018年8月27日 22時) (レス) id: cea307c8ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:東雲 | 作成日時:2018年2月6日 19時