第二七話 嫌悪と罪悪と安堵 ページ27
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「……」
引き摺り戻される様に、意識がぼんやりと覚醒した。
仄かに、消毒液の香りがする。
左手に温もりを感じる。
……此処は、何処?
「目が覚めたかい」
「……っ!?」
突然左側から掛けられた声にびくりとした。
……完璧に目が覚めました、貴方…太宰さんのおかげで。
………………そっか、私、彼の時探偵社に連れて来られたんだ。
先刻よりは幾分かはっきりとした視界で、寝台から周りを見回す。
私の左側に太宰さんと国木田さん、右側に乱歩さん。
6つの目にじっと見つめられる。
ポートマフィアとは別の威圧感に、身体が硬くなるのを感じた。
……でも。
「……あの、何で、私の手握ってるんですか」
太宰さん。
其の問いに答えたのは乱歩さんだった。
「今拘束出来無いし、君に此処で異能力発動してもらっても困るからね! まあ、しないと思うけど」
「其れもあるけどねぇ、Aちゃん。美人さんと正当な理由で誰にも咎められず手を繋げるのって、中々無いと思わないかい?」
「お前は余計な口を叩くな」
……此の人、誰にでも美人って云うなぁ。
それに。
「……何で、私の名前知って」
「芥川君があんなに叫んでたら覚えるよ」
……返す言葉も無い。
……芥川さんと樋口さん、今どうしてるんだろうか。
2人には、とても心配を掛けさせてしまった。
そう考える私を3人の中で一番険しい顔で見つめている国木田さんが、口を開こうとした時。
「……ぅ」
隣のカーテンの向こうで、小さく呻き声が上がった。
「あぁ、敦君も起きたみたいだね」
……其の名前を聞いた途端、云い様の無い罪悪感に襲われる。
あの呻き声。
……無事、なんだろうか?
………………っ!
「あッ、おい!」
「おやおや」
「あーあ。何で手、放しちゃってんの太宰」
3人の声を背中に聞きながら、私はカーテンを開けて敦くんの寝台へ近寄った。
見開かれた夕闇の色の瞳が、私を確りと捉える。
……無事だ。
「っ……ごめん、なさい」
其れを聞いて、敦くんは一層目を見張った。
でも、一度云えばもう止まらなくて。
「……ごめんなさい、ごめん、なさい……!」
私の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
其れは自己嫌悪か罪悪感からか、敦くんの無事への安堵からか、自分でも善く判らない。
……何してるんだろう、私。
泣いても敦くんを困らせるだけだと判っているのに。
涙を止める事は出来無かった。
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梓(プロフ) - 二つ結びの人さん» ありがとうございます…!励みになります! (2018年3月31日 10時) (レス) id: 72c3b0ba9c (このIDを非表示/違反報告)
二つ結びの人(プロフ) - こんばんは!!とっっても面白いです!!!この先が凄く気になります!これからも頑張ってください!!! (2018年3月28日 0時) (レス) id: 97c5c84046 (このIDを非表示/違反報告)
梓(プロフ) - 碧灯さん» 返信遅れてすみません…!そうです!住野よるさんの「よるのばけもの」をモデルにしています (2018年3月23日 22時) (レス) id: 72c3b0ba9c (このIDを非表示/違反報告)
碧灯(プロフ) - 初コメ失礼します! 質問なのですが、主人公の名前と異能力って 住野よる さんをモデルにしていらっしゃいますか? (2018年3月16日 19時) (レス) id: 391be2aaba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梓 | 作成日時:2017年8月13日 12時