十四本目 ページ15
同じ人を見る目とは思えない、軽蔑した様な冷たい光をその細く整った瞳の中に浮かべる乙夜さんを一瞥するだけで彼が怒っている事がひしひしと伝わって、思わず身震いすれば彼は途端にパッと表情を柔らかくして私を振り返る。
「それ羽織ってて」と流れる様な手つきで肩からかけられた彼のスーツを素直にそのまま羽織ってから、そしてすぐにやらかしたと青ざめながらお客様を仰ぎ見るも、彼女は既に心此処に在らずといった様子で、私以上に呆然と立ち尽くしていた。
『……乙夜さん?』
「ん? なーに」
『ぅ……いえ、何でも』
一体何を言われたら、激高からあんな様子になるというのだろうか。余程恐ろしい事を言ったに違いないと思い乙夜さんをそっと横目で窺いながらも、この先どうするつもりか聞こうと開いた口は、しかし彼の含みがまるで無い愛おしそうな笑みを見て静かに閉ざされる。
目の前で、私に手を上げたとはいえ自分のお客様であった方が顔色悪そうに立ち尽くしているのに、気にもとめない彼が少し恐ろしい。否、正直少しでは無いか。
『乙夜さん、私は大丈夫なのでお客様を』
「……え、やに決まってんじゃん。何で俺が姫を傷付けたヤツの相手すんの。いーよあんなの、他に幾らでも居るし」
「ひめ………他に、幾らでも………」
『……』
こんな騒ぎを起こしては出禁リスト入りだろうが。店長は私の事を利用価値の塊と評しているくらいなので、傷付けらる事を嫌がるだろうし、そうでなくてもスタッフに手を出したお客様を何の対処無しには出来ないし。
私は………私にも非が無かったとは、胸を張っては言い切れないかもしれないが、それでも私は被害者である。が、私に見せまいと態と目の前に立った乙夜さんが僅かに横に逸れた時に目が合った彼女の表情は、とても悲しそうで辛そうで見ていられなかった。
彼女はこの若さでかなり稼いでおり、部下にも慕われている様であったからきっと賢くて素敵な女性なのだろうに、ホストとの淡い恋の前では皮が剥げてしまうのだろう。よりにもよってそれを冷ますのが乙夜さんだなんて、流石に可哀想というか___
「何考えてんの?」
『……ぁ、いえ』
「あの女の事が気になるんでしょ。………うっわー、え〜、優し。やっぱ、そんなAちゃんは俺が守んなきゃじゃね」
「仕事辞めね? 俺が大事に養ってあげるしさ」と彼が躊躇いも無く言うのを聞いて泣きそうに歪んだ彼女の顔に、何だかいたたまれなくなるのだ。
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作者名:信楽 | 作者ホームページ:http://around-the-clock
作成日時:2023年1月17日 17時