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『御影君は思ったより私のファンなんだね』
「そうなの、玲王?」
「……うるせー」



やっぱり悪い気はしないな、と思いながら手を差し出せば、彼は不思議そうに目を瞬かせつつも私の手を割れ物を扱うかの様に丁寧に優しく包む。いっそ可哀想な程顔を真っ赤にした彼の手のひらは子供体温どころではなくなっている。あつい。

「なに……?」と聞いてきた彼に『機嫌直してねのファンサ』とだけ言えば、彼はポカンと口を開けたまま惚ける。本当に嬉しそうにしてくれるなこの子。余程衝撃を受けたのか手を穴が開く程凝視して佇む彼には申し訳ないが、私は私でさっさと仕事を終わらせたいので仕事を済ませてしまおう。



「玲王、手は洗わなきゃ駄目だよ」
「………永久保存してえ」
「無理でしょ」



白宝とは思えない頭の悪い会話を背で聴きながら、『怪我した人は手を挙げて』と声を張れば、ここでも素直な子が居るようで「俺か!」と一段と背の高い眼鏡の青年が手を挙げた。俺かと言われても知らないけれども、真っ直ぐに伸びた綺麗なポーズだな。



『あら、君も鼻なの……顔面シュート率高いんだね』
「そうか?」
『そうだよ』



ほぼどのチームにも顔を怪我した人がいる。血気盛んな年頃なんだなと思うことにしているが、流石に怪我人が多い。『湿布大丈夫?』と聞けば、彼は腕を組んで、真顔で来いと言わんばかりの佇まいをとった。頼もしい。



『じゃあ失礼して……はい、これで大丈夫かな』
「………」
『あれ? 痛かったかな』
「………」
『あ、気絶してる』



小さく切られた湿布を手に、少し屈んではくれたが身長がやはり高いので『えい』と背伸びして貼り付けて、顔を覗き込むもまるで反応が無い。まさか染みただろうかと内心心配になりながら様子を見守っていれば、眼鏡の奥で凛々しく吊り上がった瞳が瞑目されているのが見えた。

表情も変化していなかったし、私の顔に耐性があるのかと思っていたのでこんな静かに気絶されるとは想定外だ。

『大丈夫〜?』と肩をつついてみれば、彼は意識を取り戻したのか肩が少し揺れる。ホッと安堵の息を吐いたのも束の間で、動き出した彼の体が明らかに後ろへと重心が傾いているのを見て慌てて伸ばした私の手は空を切った。

そのまま鈍い音を立てて、後ろにいた人達を巻き込んで倒れ込んでしまう。もしかしなくとも最大被害数だ。



「Aちゃん、取り敢えず帰って来て」
『お兄さん……』



私の顔は凶器だったかもしれない。

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作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時

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