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『ぅん……』と思わず変な声が出たのは言うまでも無い。今までで一番厄介そうな部屋がよりにもよって最後に回って来たかもしれない。私がいきなり入って来たからか、絶叫したりその場に突っ立つ彼等の中で明らかに異質感を醸し出す青年が一人。



『こんにちは、意識あるかな?』
「ん〜」
『あ、生きてる』



地面に突っ伏して倒れている彼の元に駆け寄ってしゃがんで確認すれば、気怠げに身を捩り唸り声をあげた後、一つ欠伸を噛み殺してソロリとその瞼を開いた。中から、これまた無気力そうな黒い瞳が覗いている。

パチッと目が合うと不思議そうに私を見上げる彼に、不思議と体躯は大きいのにまるで小動物の様だと思いながら『おはよう』と微笑む。



「あれ、俺死んじゃった?」
『天使じゃないよ』
「そっか。………じゃあ誰?」



確実に目が合っていたのに、殆ど表情に変化が無い。寝惚けているのか何とも面白い事を呟いていたが、すぐに状況を把握してノロノロとその身体を起こした。わあ、想像以上に大きい。

私の顔を真っ直ぐ凝視して、寝癖のついた頭をそのままに首を傾げて問うた彼に私が答えるより先に。案内してくれた御影君が「月野Aだろ。同じ学校なのに知らねぇの?」と手馴れた様に彼の寝癖を手櫛で梳いて直しながらそう言う。



「同じ学校、だったっけ……分かんないや、誰?」
『マネージャーの月野Aだよ、初めまして……あ、君も鼻怪我してるね。湿布貼ろうか?』
「んーん、要らない。邪魔だし」
『なら冷やすだけしようね』



二人して顔を見合わせて首を傾げる。白宝のサッカー部が強いなんて聞いた事も無かったから二人も居るとは思わなかったがほぼ初対面だし、失礼ながらも何処か気の抜けていそうな彼になら別に猫は被らなくても良いかと判断した。

顔を正面から見て、彼も鼻頭がやけに赤い事に気付いて救急箱を開いて中からタオルを出す。ボトルの中の冷水で濡らして鼻に宛がえば、彼は「冷た」と感情の乗らない声で小さく呟く。



「凪は良いのかよ……」
『? ………あ、なるほど。やきもち御影君だ』
「は、」



『温くなるまで自分で押さえていてね』と言う私と、面倒くさそうに渋々返事する彼に視線を巡らせてボソリと呟いた御影君の声に振り仰げば、彼は小さく唇を尖らせて拗ねた子供の様な姿でそこにいた。

彼には猫を被って接したのに、白髪の彼には素なのが気に食わないのだろうか。正直そこまで態度は変わらないと思うけどね。

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作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時

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