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どれくらいの練習が適切かは個人差があるだろう。凛君は、今は五号棟トップとして伝えられているが、実際に言えばこの監獄内でもトップに相応しい実力を誇り、その分ストイックだ。

それを理解した上でも、最近は特段ハードなメニューを立てているのが目につく。私はスポーツに詳しくも無いド素人だから、本当は口を出したく無かったが。流石に今日は遅すぎるのでもう寝てほしいという気持ちは曲げずに、どんなに鋭く視線で射抜かれても絶えず笑顔を浮かべていれば、彼は徐ろに立ち上がるとそのまま私の横を通り抜けて行った。

え、まさかの無視だろうかと内心呆気にとられながらも後ろを着いて行く。特に何も言われないので大丈夫そうだ。



『……凛君、何しているの?』
「アフターケアだ」



あまり使っている選手を見た事がない、静まり返ったフィジカルスタジオにて。落ち着いた様子で伸びをして、筋を伸ばす様に身体を解す凛君の姿に何をしているのか問えば、彼は「クールダウンヨガと瞑想してんだよ」と呆れた様に、はたまた興味無さそうに返してくる。

男は女よりも身体が硬いと聞いたけれども、やはりそういうものは努力に左右されるのだろう。グググ、と身体を前に倒して平たくなった凛君の柔軟さに『ぉ〜』と口から感嘆の声が漏れ出た。



「これやったら寝る。お前ももう行けよ、いても何も出来ねえだろ」
『後ろから背中を押すくらいには出来るけど』
「要らねえ」
『そっかあ』



元々機嫌は良くなさそうだったのに、というより彼が機嫌良いところを見た事は無いが。それに加えて、私からトレーニングの邪魔をされて尚更気分が悪いのだろう。

そもそもヨガや瞑想は落ち着いた状態でするものなので、あまり長居しても迷惑になるか。そっと近付いて、彼の横に膝を着いて暫く眺めていれば「……なにしてんだ」と、流石に無視出来なくなったのか彼は横目で私を窺っている様だ。



『何にも。おやすみって言いたかったから』
「……は、変な奴」
『挨拶は大事な事だよ』



『おやすみ』と、目を合わせた状態で微笑みながら言えば、彼は何処かが詰まった様な、異物感に息苦しさを覚えた様な。僅かにそんな険しい表情を浮かべて、そして私へと大きな手を伸ばした。



『わ』
「……気持ち悪ぃんだよ、その目」
『わぁ、酷いね』



少し汗ばんでいて冷たい手のひらが私の目元を覆い隠す。微塵も隠さない言葉に眉根を下げて笑えば、彼は指の隙間から覗く青磁色の瞳を更に歪めた。

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作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時

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