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「だってイイトコ見せたいし」
凪君と一瞬だけ目が合った様な気がする。試合の激しい流れの中では確信は持てないが。どうしたのかと私が目を瞬かせた次の瞬間には、彼はずっと前へと進み出て超次元的なゴールを決めて見せた。
不安定なバランスだったせいでその場に身体を打ち付けた彼だったが、僅かに視線を動かして私を見つけると、真顔でお茶目にブイピースを掲げる。無視するのも何だかなと思い小さく手を振り返しておく。
どちらのチームとも一歩も引けをとらない成長を見せて進み出す試合に、何だか私までボールを蹴りたくなる程に白熱した戦いを見せられて気持ちが高揚する様であった。
一時的な興奮もあるのだろうが、今私の中で一番好きなスポーツと言えばサッカーと即答出来そうなくらい、彼らのサッカーを見ているのは楽しい。彼らのサッカーのサポートが少しでも出来るのなら光栄だと思えてしまう。
『っ、え』
《ピピーッ！ チームZ、ファウル！》
力を抜いて壁に完全に寄りかかったタイミングで、視界の端に居た久遠君が髪を靡かせて走り出すのが見える。もしかしてこの土壇場でチームVに加勢するのだろうか、という私の考えと現実とは大きく異なり、彼はまさかの凪君に飛びついて妨害した。
目の前の光景に唖然と立ち尽くすが、アナウンスされたアンリさんの声に慌ててその場に駆け寄る。
『凪君、怪我してない？』
「うん、平気そう」
『ちょっと失礼するね』
下手をすれば大怪我を負っていたかもしれない凪君だが、ファウルされた本人がこの場で一番落ち着いて居る様でなんて事無さそうにしていた。が、流石に心配なので顔や首や足等を何ヶ所か確認させてもらう。
「Aが天使に見える」
『頭痛い？』
「ううん、大丈夫」
『なら何時も通りだね』
どうやら何時もの軽口を叩ける程には余裕もある様だ。本当に確認した限りでは怪我をした様子が無い、と隣で苛立ちと不安とを抱えた様に立ち尽くす御影君に伝えて漸く、彼は少しだけ肩の力を抜いた。
無理はない状況ではあるが、意外にも激昂しやすい御影君を止めてくれた剣城君にお礼を言えば「当然の事をしたまでだ」と返される。かっこいい、目が合わないけど。
「………キミは戻らなくて良いのか？」
『……うん、別にいいかなって』
退場となった久遠君と一緒に隙間から扉の向こうを眺める。監視でもなく、本当にこれといった意味は無いが。
でも、強いて言うならば彼等の熱気が痛かった。
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作者名：信楽
| 作成日時：2022年12月25日 2時
