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『失礼しました』
これで四回目のデジャブを笑顔で流しながら、一礼してから部屋から出てこの棟最後の部屋へと向かう。どうしたものか、手当てをしに来た筈なのに何処の部屋でも少なからず被害者を出してしまっている。私にこの役目は向いていないのでは無いだろうか。
さっきのチームなんて鼻血を出している子がいた。顔に興奮して鼻血が出たとするなら、流石に彼のこれからの人命の危機を感じなければならない。
でも、この棟が済んでも後四つも残っているんだもんね。オニごっこより私による負傷者の方が多くなりかね無いが、本当にどうしよう。両目視力Aのこの目に遂に眼鏡をかける日が来たということか。
悶々と考えながら、全く変わらない景色を突き進んでいたが、角を曲がった途端にその景色に今まで無かった鮮やかな紫が飛び込んで、思わず足を止めて目を瞬かせる。目が合ったのでニコリと微笑めば、彼は大きな瞳を見開かせてその場に固まった。
『……最後のチームの人ですか？ どうかしましたか？』
「………」
『こんにちは〜？』
部屋から出て一体どうしたのだろうか、と首を傾げながら近寄るも彼は全く微動だにしない。見た目よりもずっと高い身長故に、遙か上にある顔の前に背伸び気味に手を伸ばして振ってみるも反応がまるで無かった。
『触りますよ』と声をかけて漸く、猫の様にその場から跳んで私から距離をとる彼。見た事がある顔だな、と思って見ていれば彼は顔を未だ真っ赤に上気させながら「つ、月野A!?」と信じ難そうな顔で私を指さす。私ってもしかしたらアイドルだったかもしれない、という冗談はさて置こう。
「白宝の月野A……だよな、マジか。ぜってぇ見間違いだと思ったのに」
『………嗚呼、隣のクラスの御影君。奇遇ですね、こんにちは』
「え、あ、認知されてる……」
「初めてこんな近くで見た」と感慨深そうに呟く彼。髪を結んでいるから誰かと思ったが、隣のクラスどころか学校中の人気者の御影君という事に、彼の発言から察する。
何気に初めて話をするかもしれない。何せ、人気者の彼とは違ってとことん高嶺の花に興じていた訳なので、あまり話す機会が無かったのだ。しかし、折角羽を伸ばして好きにいようと思っていたのに同じ学校の人が居るなんて想定外だった。猫被りは続行しなきゃいけないか。
『ところで、どうしましたか？』
「あ、いや……来るのが遅かったからちょっと様子を見に」
『それはすみません』
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作者名：信楽
| 作成日時：2022年12月25日 2時
