【文スト】罪の糸 (ページ2)

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序章ページ2

〜No side〜

とある夜、人気のない廃ビルに一人の影があった。その影は、月をバックに綿とスプリングが剥き出しになったボロボロのソファに座っていた。

その長く細い足は、優雅に組まれておりその手には赤い年季の入った本が持たれている。

何処か、幻想的で美しい風景だ。だが、その影の主の足元に広がる光景は幻想とは程遠いモノであった。

無造作に転がる、黒スーツを着た数人の男たち。そして、猿轡を噛まされ両手足を縄で縛られ芋虫のように転がされた男が一人。

そんな光景を、気にせずペラペラと本の頁(ページ)を捲る紙の音が辺りに響く。

その音が鳴る度に、猿轡を噛まされている男はビクビクと体を震え上がらせていた。……もう動くことすら無い、仲間を尻目に。

頁を捲る音と、男の荒い呼吸が廃墟の中に響き渡る。何とも云えない、空気が当たりを包み込む。

すると突然、ソファに座っていた影がゆっくりと本を閉じ立ち上がる。その姿に、男は拒絶するようにくぐもった声で叫び始める。

その姿に、影の主。基、槙島(まきしま) Aはその金の瞳をゆるりと小さく細めた。

貴「君たちも、執拗(しつこ)いな。それに、ご苦労なことだ。一度として、この私を捕まえることすら出来ないのに何度も役人を派遣する」

コツコツ、と足音が男の元へと近寄る。その光景に、男は顔をこれでもかと顔を青白くさせガタガタと体を震わせる。

貴「嗚呼、君も憐れだな。君たちは、私を捕まえる為に無駄な犠牲となったのだ。上の者たちは、君たちを捨て駒として扱ったのだ」

すると、持っていた本を小脇に挟みゆっくりと男の目線に合わせるように足をくつませる。

くつむと同時に、サラリと白い雪のような長い髪が下に落ちた。その光景さえ、美しく優雅に見えるが目の前の男には恐怖の材料でしか無かった。

貴「ふむ、君は今怯えているのか。先程の君の仲間のように、"死"を恐れているのか」

男は、何も答えず不自由な両手足をバタつかせ兎に角彼女から距離を置こうともがいていた。

すると、槙島は不意に履いていたズボンのポケットからある"モノ"を取り出す。

其れは、茶色の革製の丈夫なケースに入れられた彼女愛用のナイフであった。ケースから、外されたナイフは月の光に当たりキラリと小さく輝く。

其れを見た、男は狂ったように体を動かし遠い出口付近まで這いずるように動いて行く。