※ ページ28
泣きながら叫ぶ其の姿が、凄く綺麗だと思った。腕を引き寄せ、強く抱き締める。腕の中で暴れる彼女の耳元で口を開いた。
「愛してる」
「信じられない!」
「愛してる」
「何回それで」
「愛してる」
力一杯の抵抗をしていた彼女だが、ゆっくりと収まっていく。啜り泣く声が聞こえた。雨音なんかに、負けてたまるか。懐の刀を消す。彼女の手で、身体を引き寄せられる。
「何故……何時もAさんは……」
彼女の声は震えていた。抱き締めていた腕の片方を、彼女の頭に持っていき、彼女の髪を解いた。髪を梳くように撫でる。
「私は一葉さんしか見えていないよ」
「何時も……狡い……」
私の肩に頭を埋めて啜り泣く彼女は、とても美しいと思う。強がって、耐え抜いて……追い付こうと努力する其の姿が。撫でる手を止めて、きつく抱き締める。
「狡くても良い。貴女が傍に居るのなら」
叩かれた頬が少しばかり熱を持つ。このままでは、彼女が風邪を引く。仕方なし、と体を離す。先程とは別の小刀を取り出し、一葉さんに持たせる。
「持っていて」
「え?」
「よいしょ!」
強化された力で、一葉さんを姫抱きにする。……軽過ぎないか?不安げな彼女と目を合わせ、笑いかける。
「走るよ。首に手を回して」
「え?え?」
困惑気味に腕を回す彼女の姿を見てから、全速力で走る。何だか狼にでもなった気分だ。首筋に顔を埋められる。恥ずかしいのだろう。
「可愛いね、一葉さん」
「言わないで……!」
足元がピチャピチャと軽い水音を立てる。ズボンの裾何て、濡れて色がより濃くなっていた。
店に着き、一葉さんを降ろす。降りた後に顔を覆うその動作さえ可愛くて仕方が無い。片手で抱き寄せて、額に口付ける。
「こ、公衆の面前で!」
「あははっ、風邪引くよ。入ろう?」
叫ぶ一葉さんの耳が赤い。手の隙間から此方を伺い見る其の姿は、まるで小動物だ。可愛い。
軽く笑いながら、先程の店の扉を開く。
一葉さんも観念したのか、手を降ろして店に入る。顔は茹で蛸みたいに真っ赤だ。
「手前等、用は済んだか?」
「はい。誤解は解けましたので」
そう言いながら、彼女の肩を抱いて引き寄せる。瞬間に慌て出す一葉さんが、私の身体を軽く押す。視線を逸らしながら。中原幹部の溜息。
「見せつけンなよ。鬱陶しい」
「じゃあ、私達は帰りますね。荷物を取りに来ただけなので」
手荷物をひったくり、扉に向かう。
「中原幹部、すみません……」
「樋口は気にすンな、此奴が悪い」
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いちご(プロフ) - ミラから来たぞおおおぉ! に、しても評価凄いですね!Σ(゚ロ゚;) (2020年6月21日 14時) (レス) id: 3cbabf2902 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - 道化さん» 全然OKです。後見させてもらいました、兎に角好き(語彙力Maxです。 (2019年8月4日 17時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - 書かせて頂きました!お仕事疲れとの事なので、ちょっと絡めたお話を。ゴーゴリ「頑張った子には、ご褒美がいるよね!私は分かっているのさ!」 (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - モフ子さん» 了解しました!リクエスト内容は、シリーズ最新作の「恋は下心」の方に投稿させて頂きますが、大丈夫でしょうか? (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - リクエストしても宜しいでしょうか?天人五衰のゴーゴリ君っていいですか?シチュエーションは何でも構わないのでお願いします!仕事帰りに癒されたい!どうか私の我儘を聞いて下され (2019年8月2日 11時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:jazz | 作成日時:2019年4月26日 19時