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酒も入り話も弾む。男は女に対して印象を変え始めていた。中々に話の合う人じゃないかと。

「恋愛推理小説とアイスピックには」
『冷たい愛!』
「矢張り話のわかる人であるな、君は」

互いに笑い合い、互いに論を展開。二人の感性は近い物がある様で、よくよく声が重なっては互いに感心している。
グラスの中の氷は小さくなっており、其れだけ二人が長く話していた事を示していた。

「では吸血鬼は?」
「其れこそ、鏡だよ」
「何故?」
「狂人は、鏡の中の自分を他者と認識する」

又逆も然り、と呟き女は男に凭れる。男の心臓が大きく脈打った。服の隙間から見える光景には目を逸らして。女には、そんな所もお見通しだった。

「初だねぇ」
「し、仕方ないのだと思って欲しい!我輩、女性経験は余りにも少なく……」
「……其れもそうか」

女は、自身の持つグラスを橙のランプに翳す。光がグラスに反射し、氷が宝石の様に輝いた。溜息一つ。

「あの、こんな時に言うのも何であるが……」
「何?」
「我輩、確かに熱中人(ギーク)であるが……その……名前があるので其方で呼んで欲しい……」

もじもじと照れながら言う男。女はその様子を見て、優しく微笑む。酒に視線を戻し、女は口を開いた。

「名前は?」

女の問いに、男は少し戸惑い、躊躇い、おずおずと様子を伺うように呟いた。

「エドガー・アラン・ポオ、という名である」

その答えを聞き、女は静かに語り出す。その口調は、宛ら路地裏で紙芝居を演じて静かに稼ぐ商人のように。

「ではポオ。実はね、私も昔は熱中人(ギーク)だった、という話を聞いた事はある?」
「……そんな話は初耳である」

酒の入った午前二時。彼女は、焦点を態と合わせずに、ぼんやりと、ただぼんやりとグラスの酒を見詰めていた。男は女を見て、目を丸くする。

「学生時代まではそうだった。だが小説が売れ、取材を受け、宴に招待され……私は急かされるように毎日を送った」
「君は稀代の天才作家だ、想像はつくのである」
「……感性は、昔より鈍ってしまったけどね」

女の手元のグラスが煽られる。氷がカラリと音を響かせる。その姿だけでも扇情的な女の様子に、女の発言に、男の目は釘付けだった。

「そ、そんな事は……」
「あるんだ。私は君が羨ましい」

女が其処迄告げた瞬間、男は女をキツく抱き締めた。次は女が目を丸くする番だった。男の目には、多少の涙。

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いちご(プロフ) - ミラから来たぞおおおぉ! に、しても評価凄いですね!Σ(゚ロ゚;) (2020年6月21日 14時) (レス) id: 3cbabf2902 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - 道化さん» 全然OKです。後見させてもらいました、兎に角好き(語彙力Maxです。 (2019年8月4日 17時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - 書かせて頂きました!お仕事疲れとの事なので、ちょっと絡めたお話を。ゴーゴリ「頑張った子には、ご褒美がいるよね!私は分かっているのさ!」 (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - モフ子さん» 了解しました!リクエスト内容は、シリーズ最新作の「恋は下心」の方に投稿させて頂きますが、大丈夫でしょうか? (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - リクエストしても宜しいでしょうか?天人五衰のゴーゴリ君っていいですか?シチュエーションは何でも構わないのでお願いします!仕事帰りに癒されたい!どうか私の我儘を聞いて下され (2019年8月2日 11時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:jazz | 作成日時:2019年4月26日 19時

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