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カランカラン。軽いベルの音が店に谺する。内装は橙で統一された壁紙に黒い机と椅子。淡いランプがレトロモダンを演出していた。
「ず、随分と粋な店を知っているのであるな……」
「ま、風流人としての嗜みかな」
女が靴音を響かせて中に入ると、男も後を追う。カウンターに腰掛け、BARのマスターに向き直る二人。女が男を一瞥して口を開いた。
「洋酒は?」
「飲めるが……」
「マスター!バーボン二つ!」
手馴れた様子で酒を頼む女。男はその強引さにタジタジにされ乍らも、満更でもない様子だ。奥に店主が引っ込んだ時、女は男を見つめる。
「で、何だけどさ。君の推理小説、私は気に入ってるんだよ。トリックとか」
「あんな物、在り来りで……」
「其れを意外性のある書き方で騙くらかす!其処が作家としての腕だよ。君は素晴らしいね、
酔ってもいない筈の女は、男の背中をバシバシと叩く。叩かれている本人は、褒められているのか貶されているのかもわかっていない。何処ぞの名探偵を思い出し、溜息一つ。
「A君は乱歩君みたいである……」
「Hun……?ランポ?どんな人?」
女は眉間に皺を寄せ、首を傾げる。何の話だ?とでも言いたげに。男は女に向き直ってから、彼女の顔の美しさに目を逸らした。誤魔化すように、思い浮かべた彼の話をする。
「この街の名探偵である。凄い観察眼を持っていて、我輩は彼に勝ちたいと常々……」
「なら、私が一つ教えてあげよう」
男の心を知ってか知らずか……女は男の顔を引き寄せ、耳元に口を寄せた。
女が首筋を撫でた時、男が震える。その瞬間、女は奇々怪々なトリックを囁いた。男はその案に目を丸くする。
「さ、流石は稀代の天才作家……其の様なトリック、我輩には思いもよら無かったのである……」
「ふふ、思考と嗜好、そして加虐被虐も通り越したある種の倒錯だよ。私の得意分野では無いけどね」
女が少女の様に無邪気な笑みを浮かべる。其の笑みは、此から大人達が怒り出すような悪戯を企てる子供の様。
釣られて男も笑う。アライグマが女の肩に飛び乗った。
「カール!余り不躾な事は……」
「良いよ、私は気にしない」
女が言った瞬間、二人の前に蜂蜜色をした酒が出される。中に入った氷が音を立てた。
「さぁ、飲もう」
「……今夜は我輩の奢りでも良いだろうか?」
「何故?」
女が首を傾げた時、男は自身の唇に人差し指を当てる。
「君の口寄せした、秘密のトリックの礼である」
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いちご(プロフ) - ミラから来たぞおおおぉ! に、しても評価凄いですね!Σ(゚ロ゚;) (2020年6月21日 14時) (レス) id: 3cbabf2902 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - 道化さん» 全然OKです。後見させてもらいました、兎に角好き(語彙力Maxです。 (2019年8月4日 17時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - 書かせて頂きました!お仕事疲れとの事なので、ちょっと絡めたお話を。ゴーゴリ「頑張った子には、ご褒美がいるよね!私は分かっているのさ!」 (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - モフ子さん» 了解しました!リクエスト内容は、シリーズ最新作の「恋は下心」の方に投稿させて頂きますが、大丈夫でしょうか? (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - リクエストしても宜しいでしょうか?天人五衰のゴーゴリ君っていいですか?シチュエーションは何でも構わないのでお願いします!仕事帰りに癒されたい!どうか私の我儘を聞いて下され (2019年8月2日 11時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:jazz | 作成日時:2019年4月26日 19時