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チューハイ『F・ドストエフスキー』※櫻子さんリクエスト ページ15

「ただいまぁ……はぁ……」

仕事帰り。私はアパートの扉を開け中に入る。扉を閉め、靴を脱ぎながら鍵をかける。上がるときにドサリと落ちた鞄には、暫く用はない。

一直線に冷蔵庫に向かい、缶のチューハイを二つ取り出す。テーブルに置き、その近くにある摘みを買い貯めてある筈のビニール袋を手繰り寄せた。

「え……少な……」

中身を見て落胆。買いに行くかと諦める。上衣を脱ぎ、下半身だけパンツスーツからジーンズに履き替える。

ピンポーン

呼び鈴のチャイムが軽い電子音を響かせた。直ぐに外へ出たかった私は、来客を知らせる音にまた落胆。軽く流す為に扉を開ける。

「はーい、何方様で」
「ぼくです」

白い毛皮の帽子に窶れた顔。見たくない人物。扉を閉め、鍵をかけた。

……うん、私は何も見てない。今日はツマミが少なくても我慢しよう。
そう心に決めた瞬間に、呼び鈴がまた音を立てた。無視を決め込み、居間に戻る。

何回か目のチャイムが鳴ると、静かな時が流れる。ツマミの袋を一つ開けた、その瞬間。

ドンドンドンドンドン

「何事!?」

扉を叩く音が部屋に谺する。流石に扉を壊されては堪らない。重い腰を上げ、玄関への道を辿った。足にサンダルを引っ掛ける。

扉を開けその先。男は読めない笑顔を浮かべ、ヒラヒラと手を振った。

「……諦めてくれない?」
「無理な相談ですね」
「何でやねん」

思わずエセ方言が出てくる始末。男が女一人の部屋に尋ねてやってくる。下心を疑わずにはいられない。

「良いじゃないですか。貴女の話が聞きたかったんですよ」
「またの機会にしてよ。今日はグダって潰れてトんじゃうくらいまで飲んで、明日は二日酔いコースって決めてるんだから」

私の発言に、首を傾げる目の前の男。名はフョードル・ドストエフスキー、と言ったと記憶している。

何時ぞやで呑んでいた居酒屋で、意気投合しただけの人物である。
それなのに、何故か私の家を特定し、私の職場を特定し、あまつさえ私がよく行く呑み屋の全てを特定したのだ。恐怖を抱いても可笑しくはないだろう。
そう言う経緯から、私はこの男が苦手だ。

フョードルは爪を齧りながら何かを考えていた。肌寒い夜風が私の体を冷やす。

「っくしょん!」
「ほら、余り外に居ると冷えますよ。中に入りましょう」
「お前を入れるとはひとっっ!ことも言ってないけどね!?何を自分の家みたいに言ってんの!?」

さり気なく部屋に入ろうとした男を阻止。舌打ちが聞こえた。

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いちご(プロフ) - ミラから来たぞおおおぉ! に、しても評価凄いですね!Σ(゚ロ゚;) (2020年6月21日 14時) (レス) id: 3cbabf2902 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - 道化さん» 全然OKです。後見させてもらいました、兎に角好き(語彙力Maxです。 (2019年8月4日 17時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - 書かせて頂きました!お仕事疲れとの事なので、ちょっと絡めたお話を。ゴーゴリ「頑張った子には、ご褒美がいるよね!私は分かっているのさ!」 (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - モフ子さん» 了解しました!リクエスト内容は、シリーズ最新作の「恋は下心」の方に投稿させて頂きますが、大丈夫でしょうか? (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - リクエストしても宜しいでしょうか?天人五衰のゴーゴリ君っていいですか?シチュエーションは何でも構わないのでお願いします!仕事帰りに癒されたい!どうか私の我儘を聞いて下され (2019年8月2日 11時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:jazz | 作成日時:2019年4月26日 19時

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