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二人は食事を続ける。笑みを浮かべ、世間話を交わし、想いを躱し躱され、食事に舌鼓を打つ。女は、食事に目がなかった。

「此処のビーフシチュー、美味しいですね」
「だろ?Aの好物がビーフシチューだって聞いてな。飛び切り美味い店を探してやったんだ、感謝しろよ」
「有難う御座います」

自分の事を嗅ぎ回る上司に、女は疑問を覚え訝しく思う。だが、素直な好意は受け止めなければと、礼を言った。
軽く頭を下げた時、上司は女の顎を人差し指一つで上げる。青い目が、女を刺した、

「なら、もうそろそろ俺に呑まれてくれねェか?」
「……すみませんが、私はまだ自由で居たいので」

そう。女は自由を愛していた。だからこそ、女は特定の異性との交友を余り続けない。

彼女にとって上司が異性という事は、少しばかり宜しいものではなかった。増してや、その上司が自分に好意を向ける事など、予想すらしていなかったのだ。

上司は挑発する様に口角を上げ、歯を見せて笑った。

「今より自由かもしれねェぞ?幹部の女だ、権力はある。金もある。何なら手前が望む事、全部叶えてやってもいい」
「……私は、自身の力で得た物でないと信用がなりませんので」

のらり、くらり。女は読ませない発言で上司を翻弄した。上司は芯をわかっていたが、敢えて乗っていた。その時間でさえも、彼にとっては楽しい時間だ。

「本当に手前は人を信用しねェなァ?」
「ええ、まぁ」
「幹部命令だ。酒に呑まれて、俺に醜態を晒してみろ」

最早、上司は手段を選んでいなかった。女の全てが知りたかったのだ。女は眉間に皺を寄せた。グラスに口を付け、一気に煽る。
グラスが紅から透明になった時。女が笑って夜景を見詰める。上司が視線を追って夜景を眺める。女は目を閉じた。

「中原幹部」
「あァ?」
「梯子酒って、わかりますか?」
「ッたりめェだ」

女は上司に向き直り、挑発的な笑みを浮かべる。いきなり、ボトルから手酌で葡萄酒を自分のグラスに入れて、一気に飲み干す。

「おい莫迦!混ざるって言っただろうが!」
「すみません、中原幹部。私、こんなにも素敵な所だと、息が詰まる」

袖で思い切り口を拭ったその姿。それは、今まで上司が見た女の姿とは、まるで別人の様だった。

「フルコオスなんて上品ぶってるより、安い居酒屋で喰らって呑んで下品に笑いたい。安くて粗雑な葡萄酒、付き合って下さい」

上司は思った。あァ、何て強くて綺麗な奴だ、と。彼は彼女を諦めない。

ウイスキー『芥川龍之介』→←葡萄酒『中原中也』



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いちご(プロフ) - ミラから来たぞおおおぉ! に、しても評価凄いですね!Σ(゚ロ゚;) (2020年6月21日 14時) (レス) id: 3cbabf2902 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - 道化さん» 全然OKです。後見させてもらいました、兎に角好き(語彙力Maxです。 (2019年8月4日 17時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - 書かせて頂きました!お仕事疲れとの事なので、ちょっと絡めたお話を。ゴーゴリ「頑張った子には、ご褒美がいるよね!私は分かっているのさ!」 (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - モフ子さん» 了解しました!リクエスト内容は、シリーズ最新作の「恋は下心」の方に投稿させて頂きますが、大丈夫でしょうか? (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - リクエストしても宜しいでしょうか?天人五衰のゴーゴリ君っていいですか?シチュエーションは何でも構わないのでお願いします!仕事帰りに癒されたい!どうか私の我儘を聞いて下され (2019年8月2日 11時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:jazz | 作成日時:2019年4月26日 19時

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