※ ページ32
さて、グレープフルーツの苦味とアルコールで頭がグラつき始めた頃。お腹も満たされ、意識がふわふわとしてくる。
この位の時間だと、どうやらゴーゴリも素が出るらしい。大分落ち着いた性格になるのだ。
「ねえ、君は如何して僕のショーに驚かないんだい?」
「……私には関係ない世界でしょ」
彼の冷静な質問に、私は無表情で答える。缶の中身を一口、嚥下する。
子供の頃から少し冷めていた私は、遊園地やサーカス、その他娯楽施設に連れて行かれても何も感じなかった。楽しい体験を強制されるのが嫌いだった。
「でも、本の類は豊富にある」
「……傍観者で居ることを許してくれるから」
鋭い一言が嫌いだ。道化は時に、私の心の核心を突く。視線を逸らすと、クスクスと笑われた。
「君らしいね」
「そりゃどうも」
「ではでは!?そんな君にも楽し」
「其のテンションは要らない」
缶の中身を空にして、両手で潰す。新しい缶を取りに行こうと思ったが、その必要もなく席に戻る。既に私の取り皿の傍に中身のあるアルミ缶が出ていた。
「ありがとう」
「いえいえー」
蓋を開け口を付けるが、中身は飲まずにぼんやりと空間を見詰める。私の間抜けた様子に、彼は溜息を吐いて呟いた。
「自由って……なんだろうね」
それは、本当に彼の本心であるように聞こえた。私は、私の答えを持っていた。口を開く。
「責任……だと私は思う」
「……そう?」
「うん」
私が彼の様に自由な思考の持ち主で、感情豊かなら悩んだんだろうか。目の前の彼は目を丸くしていた。
私は子供の時が短過ぎた。少女と呼ばれるその時には、既に大人と同じレベルで話が出来ていたのだ。そんな私には、彼は眩しすぎる。
「僕は……青い鳥だと思う」
「幸せでも欲しいの?」
「その幸せって何だい?」
この道化は、不思議の国の芋虫なのだろうか。疑問を疑問で返すな。
酔いの回った頭で考えるが、浮かんでくるのは世界が回るような感覚のみ。
「……なんだろうね」
「君でも迷う事があるんだね」
彼は、心底驚いた様な声で言った。静かな驚きと言った方が適切だろうか。その声に、私は首を横に振った。
「私は全知全能じゃない」
全知全能なら、どれ程良かったか。増してや、無知だったらどれほど良かったか。俯く。涙が溢れて止まらなかった。頭に、温もり。
「……道化の前なら、泣くのも笑うのも秘密の事だよ」
人の心を救う道化等聞いたことが無い。その前で啜り泣く私を、どうか愚者と呼んでくれ。
花見酒『探偵社オールキャラ』※ららさんリクエスト→←グレープフルーツサワー『N・ゴーゴリ』※ゆらさんリクエスト
153人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
いちご(プロフ) - ミラから来たぞおおおぉ! に、しても評価凄いですね!Σ(゚ロ゚;) (2020年6月21日 14時) (レス) id: 3cbabf2902 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - 道化さん» 全然OKです。後見させてもらいました、兎に角好き(語彙力Maxです。 (2019年8月4日 17時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - 書かせて頂きました!お仕事疲れとの事なので、ちょっと絡めたお話を。ゴーゴリ「頑張った子には、ご褒美がいるよね!私は分かっているのさ!」 (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - モフ子さん» 了解しました!リクエスト内容は、シリーズ最新作の「恋は下心」の方に投稿させて頂きますが、大丈夫でしょうか? (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - リクエストしても宜しいでしょうか?天人五衰のゴーゴリ君っていいですか?シチュエーションは何でも構わないのでお願いします!仕事帰りに癒されたい!どうか私の我儘を聞いて下され (2019年8月2日 11時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:jazz | 作成日時:2019年4月26日 19時