『文豪ストレイドッグス』飲んで呑まれて愛を引く<短編集>

ブラッドメアリー『尾崎紅葉』※櫻子さんリクエスト ページ25

カラン、と軽いベルの音が店内に響く。待ち合わせをしていた女の一人が店に入る。対して、花魁風の女は優美に手を上げた。

「尾崎幹部、すみませんね」
「ふふ、此処ではそう呼ぶでない。昔の様に呼べば良い。敬語もナシじゃ」

店に入った女は、キッチリとしたパンツスーツ。上着を椅子に掛け、ゆったりと花魁風の女の隣に腰掛ける。相手の言葉に、笑って頷いた。

「お言葉に甘えて……あ、ブラッドメアリーと野菜スティックをお願いします」

注文を済ませる女に、待ってましたとばかりに口を開く花魁風の女。

「して、主の想い人の相談とは何じゃ？」

早速、と言わんばかりに切り出されたその話題に、スーツの女は苦笑い。花魁風の女は、興味でもう一人をじっと見詰める。机の上に、注文の品が揃う。

「……中原幹部、なんだけどね」
「あの童ぁ！？主、年下趣味じゃったか！？」

余りの衝撃に目を丸くした花魁風の女。スーツの女はその様子に深く溜息を吐く。歳や体裁、更には気持ちとの折り合いの為であろう。真っ赤に染まったグラスを見詰める。

「……矢張り、彼からしたら年増だし、階級も低いし……相手にはして貰えないだろうなと……」
「え、あ、否、そういう訳ではないと思うがのぅ……そうか、中也か……」

花魁風の女は戸惑っていた。何故なら、時たま彼女の想い人からも相談を受けるからだ。想い合っている事を、今知った彼女の心境は複雑だろう。

(今、伝えるべきか……？いやいや、これは本人達の問題じゃろうし……)

沈黙が続く。花魁風の女には冷や汗。その様子を見て、スーツの女が儚げに笑った。

「笑っていいよ。良いんだ。見てるだけでも、私は幸せだから」
「いやぁ、諦めるのは早いと思うぞ？一つ、想いを打ち明けてみたらどうじゃ？」

この位なら許されるだろうと、平静を装い促す花魁風の女。スーツの女が、目を丸くしてもう一人を見詰める。

その時。軽いベルの音が店内に響いた。

「姐さん……と、A！？」
「な、中原幹部！？す、すみません！」

男女が目を合わせると、両者の肩が跳ねた。花魁風の女は、此れは好機、ともう一人の肩を叩く。スーツの女が彼女を見た時、優しい微笑みが背中を押した。頷き、男に向き直る。

「な、中原幹部……不躾な真似を、どうぞお許しください」

何かを察した男が、女の言葉を手で制した。

「待て！……俺から言わせろ」

却説、翌日の話。一組の男女が、花魁風の女に感謝しているのが目撃されていたとか……

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