tender rain 数原龍友 (ページ29)

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奥の部屋に案内され、足を踏み入れる。

「リビングで待ってるわ」

「ありがとうございます」

気を利かせてくれたのか、1人にしてくれた。

龍友は仏壇に花を置いて、その前に座る。

「…久しぶり。今まで来れんくってごめんな」

龍友は線香を立てる。

「これからはちょくちょく会いにくるからな。

俺のこと、忘れんといてな」

少し胸が苦しくなった。

でも、もう涙は出ない。

龍友は笑顔で遺影を見つめた。

リビングに向かうと、お茶を出してくれた。

「あの子が死んでから、友達がたくさん手を合わせにこの家に来てくれたわ」

「…」

「でも、みんな案外すんなりと忘れちゃうの。

２年くらい経てば、誰も家には来てくれなくなったわ」

少し悲しそうな顔でそう話してくれた。

「龍友君は全然来てくれなかったわよね？あの日のこと、相当怖かったんでしょう？」

「…はい。すみません」

「謝らないで。目の前で人が死ぬのを見て平気なわけないもの。あんなの、小さい子どもには酷すぎた」

この人はとても優しかった。

「龍友君は、あれから大丈夫だったの？」

「雨が降るたび、あの日のことを思い出していました。

年甲斐もなくパニックになったりすることもあって、正直苦しく感じてました」

龍友は優しく笑う。

「でも、俺はそれでよかったと思ってます。俺、絶対に忘れたくなかったから」

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