三十九話目 3 勘右衛門ver. ページ45
雪とはいつも壁がある。
それはよく一緒に甘味を食べたりしていた俺にもあった。見えない壁に隔てられて、たとえお世話係でよく一緒にいたとしても、それは他の人と変わらずにあった。
あの夜…爆発前に雪に飛びついて池へと飛びむ寸前。
見てしまった、泣いていた雪の顔を。
雪は苦しんでまで、俺達を暗殺しなきゃいけなかったのか…?
勘>…行くな。
出てきた言葉はその三文字。こんな事しか言えない。
思っている事は沢山あるのに、今は言葉が出て来ない。
俺さ、きっと情けない顔してるよ。
見せられないからこそ顔を伏せて、強く抱き締めて…でも全身が震えてしまっていた。
雪に会えて、俺は分かったことが沢山あるんだ。
俺は雪の甘味を食べている時の、緩んだ顔が好きでそれが見たいからよく一緒に食べていて、率直ですぐに気づいてくれて、そんな雪が目の前からいなくなったら…もうあの顔は見れないのは、嫌だ。
俺さ…知りたい事、聞きたい事が沢山あるんだ。
雪は一番好きな甘味は何か、好きな色は、行きたい場所は……好きな人は。
勘>行かないでくれ…。
同じ言葉しか出なくて、伝えたい事があるのに、それは出てこない。
今言ってしまえば俺達のこれまでが終わる気がする。
今は言葉で伝わらなくていい、それでも俺はこの手を離さない。
あの夜に壊れかけた俺達の関係を、もう一度やり直す為に、また皆で笑って過ごせる日が来て欲しいから。
俺達は忍者のたまごで、雪は暗殺者。
その言葉は現実であまりにも虚しくて、でもそのたまごだって出来ることはある。
そっと手に感じた温もり。ふと、それを見れば雪が俺の手を握ってくれていた。
震えたその手で…俺よりも小さな手で。
すぐに俺の方を振り向かせれば、驚いている雪。
そんな彼女は、涙を流していた。
助けを求められなくて、どちらにいても敵味方とか、育った場所とか、今の雪は戦う事にも不安があるのに、一人で行こうとした。
それでも、行こうとしたのは俺達の為。
ひしひしと伝わるその思い。
そして、雪の本心が聞きたい。
口になんて簡単に出来ないよな。
だって雪がここに来た理由と、月華ではなくこっちにいる理由、既に矛盾があるのに…今更言葉にするのは怖いよな。
でも、俺は決めてるんだ。
絶対離れない、傍にいるって。
また一緒に甘味を食べに行こう。
その時は二人で、今までに見せた事の無い笑顔を…俺だけに見せて欲しい。
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作者名:霜月 | 作成日時:2020年3月6日 0時