30.私の幸せの半分 ページ30
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「鮭おにぎりひとつください」
「……え」
弟の晴れ舞台なんだから有給取れ！と優しい上司に叱られた私は、今日だけは私服だ。
大きな大きな体育館の端っこでおにぎりを売っているお兄さんを見つけ、にこりと笑う。ぷ、固まってる。
「お、お姉ちゃん！！？」
「そうだよ。お姉ちゃんだよ」
「びっっくりした…
帽子のつばを上げて目を丸くする治くん。
私が家を出てからはあまり顔を合わせなくなってしまったので、なんだか久し振りだ。
「ここでおにぎり売ってるって風の噂で聞いたから、治くんにも会いに」
「…どこ情報？」
「北くん」
「交流あるんかい、そっちに驚きやわ」
ワァッ！と歓声があがる。侑くんのサーブが決まった。
スクリーンに映る彼の顔もまた、久しぶりに見たような気がする。学生の時は毎日一緒にいたのに。
「……またなんか、一段と綺麗になったんとちゃいますか」
俺の知らんとこで、と不貞腐れた顔をしている。
大人になったというのに相変わらず寂しがり屋さんで、思わずキュンとしてしまった。
「私相手にお世辞は要らんでしょ」
「いや、まじまじ。」
愛しの弟が握ったおにぎりは世界一美味しかった。
私の幸せの半分の半分は、治くんがくれる。
＊＊＊
出待ちするといいと治くんに教わり、待っていることにした。
「エ！？おおおお姉ちゃん！！？」
「やほー」
ふらりと上げた手はガシリと掴まれる。え、何その試合終わりとは思えない勢いの良さ。
あ、髪のセット変えたな。そっちもかっこいい。さすが私の弟。
ぼーっとしていると、侑くんが叫んだ。
「来るなら言うてや！！
お前ら俺のお姉ちゃん見んな！減る！！！」
「減るんだ」
チームメイトの皆さんに軽く会釈すると、目の前に侑くんが立ちはだかる。なんなんだ。
「試合見てたよ。頑張ったね」
「かっこよかった？」
「世界一」
「侑くん大好き♡までセットで」
「それは周りの視線が痛いからちょっと」
あからさまにしゅんとした顔が可愛くて、背伸びをして頭をぽんぽんしようとした。否。届かない。
また背が伸びたな！？
「なにそれ可愛ええ〜！！」
「屈んでよ！！！」
楽しそうに笑う侑くんに釣られて笑った。
私の幸せの半分の半分は、侑くんがくれる。
私の幸せの半分は双子でできている。
end.
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作者名：- | 作成日時：2020年3月13日 22時
